プロローグ
お久しぶりの方もはじめましての方も、ありがとうございます!
今回のお話も楽しんで頂けたらなと思います(^^)
続けてもう一話投稿しますので、よろしくお願いします。
ああ、私、死んじゃったんだ。
轢かれた衝撃と痛みを感じたのは、ほんの一瞬。
でも仕方ないよね、自分が悪いんだから。
心残りは、あの子たちのこと。
私がいなくなって、悲しい思いをしたり、病気になったりしないかな。
ちゃんとご飯はもらえてるかな。お風呂にも入れてる?
私の代わりに、かわいがってもらえる人のところに行けるといいのだけれど。
考えるのは、そんなこと。
それにしても、死んでからも意識ってちゃんと残っているものなのね。
これからどうなるのかな。だんだん消えてなくなっちゃうのかな。それともお迎えが来たりするのかな。
死んでしまったというのに意外と冷静な自分に、くすりと笑みが零れる。
……あれ? なにか聞こえる。反射的に目を開くと、視界がぼやけていた。
「ーーあら、お嬢様がお目覚めになりましたわ」
はっきりと聞こえた、日本語じゃない言語。それなのに、なぜかしっかりと言葉を理解できている。
「ああ、そう。嫌だわ、また泣き声が響くのかしら。私は寝室で休んでいるから、絶対にうるさくさせないで頂戴」
女の人だよね、綺麗な声だけど口調は強い。ひょっとして、死後の世界の偉い女神様とか?
「か、かしこまりました」
怯えるような声、こっちは女神様に仕える使者の人とかかな?
下働きも大変よね……と同情すると、不意に声が出た。
「あぅ」
あれ? なにこの声。
「あっ、あ〜」
え、ええ? 〝なにこの声〟って話したつもりなのに、全然違う言葉、いや喃語? が出た!?
「ああお嬢様、お願いですから泣かないで下さいね。奥様は産後でピリピリしていますから、お嬢様がうるさくされると、私どもまで叱られてしまいます」
「あぅあ〜」
〝お嬢様〟。なんですかそれ。誰のことですか。
おろおろと話している人の顔も、周りの景色もよく見えないけれど、たぶんこれは私に向かって言われている言葉なのだと思う。
「はぁ……名門・オーガスティン侯爵家のお嬢様とはいえ、まだ生まれて間もない赤ん坊に、泣かせるな、うるさくさせるななんて、無理だわ……」
なんだか色々と驚きの単語が飛び出した。ひょっとして、赤ん坊って、オーなんとか侯爵家のお嬢様って、私のこと?
「また奥様に平手打ちされるのかしら……嫌だわ」
盛大なため息が聞こえた。
な、なんだかよくわからないけれど、赤ん坊になったらしい私が泣くと、この人が怒られちゃうのね?
見ず知らずの人なのに、私のせいで怒られてしまうなんて、それは申し訳なさすぎる。
「あぅ」
泣かないように気をつけます! そんな気持ちで声を発する。
「あら、珍しい。今日は目覚めてもお泣きにならないのですね」
「あぅあぅ」
「……返事、して下さいました? いえ、まさかね。まあいいです、とりあえずもうしばらく泣かずに大人しくしていて下さいね。奥様がお目覚めになるまで、お願いいたします」
赤ん坊にそんなお願いをするなんて、どうやら奥様とやらはずいぶん恐いらしい。……というか、もしかしてその奥様とやらは、私のお母さん、ってことなのかしら。
はて?とよくよく考えてみる。先ほどから聞こえてくる会話の内容、ぼやけた視界、うまく動かない手足と言葉にならない声。
これは、まさか……。
「あぅあぅあぅ、あ?」
生まれ変わったの? 私?
現代日本ではない、異世界に転生したことに気付いたのは、このもう少し後のこと。
ここが死後の世界でもなければ、聞こえた声が女神様や使者のものでもないこともすぐに悟った。
そんな生まれ変わった私が最初に決意したことは……。
「あう、あぅあ〜」
とりあえず、泣かないように頑張ろう。
その時は真剣に、そう思ったのだ。