〈王国〉軍反撃
出撃命令が下され、リラ・カタン2等兵は塹壕の中から這いだした。
少し走っただけで、右肩に乗せた対戦車銃の重みで息が荒くなるのを感じる。
そもそもこの対戦車銃は「2人で運搬可能」というだけだ。「2人なら他の歩兵と一緒に突撃も可能」ということではないだろうと、リラとしては思う所であった。
しかしここで愚痴を言う訳にもいかないことをリラは知っていた。
後ろにいるアサズ・サーテス伍長は銃だけでなく、弾薬まで抱えて走っているのだ。つまりリラ以上の重荷を背負っているのであり、彼の目の前で弱音は吐けなかった。
(にしても何て不吉な格好だろう)
前を走る味方歩兵を見ながらリラは思った。
今は1刻、即ち真夜中である。その真夜中の戦闘で味方を誤射しない為、リラたち〈王国〉軍歩兵はヘルメットと右腕に白い帯を巻いている。
白なら真夜中でも目につきやすく、包帯を流用できるので合理的と言えば合理的なのだが、これを考えた人物は「白い帯」の意味を知らないのではないだろうか。リラにはそう思えてならない。
今から約600年前、〈王国〉国内で軍閥が群雄割拠していた時代に、アラトス家という弱小軍閥があった。
そのアラトス家は石啓教暦1295年に隣の大軍閥に攻められ、勇猛果敢だが絶望的な抵抗の末に根切りにされている。
そして白い帯というのは、そのアラトス家の軍が勇気を誇示するために付けていたものなのだ。
言わば「勇敢な敗者」の象徴であり、軍閥や任侠団体ならともかく国軍が身に着けるべきものではない。リラはそう思っている。
近代国家における軍隊の仕事は栄光ある敗北を喫することではなく、どんなに不名誉な形であっても勝利を得ることなのだから。
何よりリラにとって不快なのは、自分たちが駆り出されている任務にはある意味で白い帯がお似合いであることだった。
ナサド市から一時後退した〈帝国〉軍に大規模な夜襲をかけ、ナサド県全域から後退させる。これがリラたちに下された命令だ。
夜間であれば敵攻撃機は活動できないので、敵航空優勢下であっても互角の勝負が挑める。この作戦を立案した人物はそう考えているらしい。
誠に甘い考えだとリラは思う。たとえ攻撃機がいなくても、〈帝国〉軍の火力は圧倒的なのだ。
陸戦の基本単位である中隊の火力を比べただけで、その差は歴然としていた。
〈王国〉軍1個中隊の火器は小銃を除けば、対戦車銃2丁と軽機関銃2丁しかない。
対する〈帝国〉軍は普通の歩兵中隊でも、軽機関銃32丁と重機関銃4丁を持っているのだ。
機械化歩兵中隊の場合はこれに、装甲輸送車の重機関銃17丁が更に加わる。
つまり〈帝国〉軍は軽装備の方の部隊でも、〈王国〉軍のおよそ10倍の支援火力を持っていることになる。
その〈帝国〉軍に向かって生身の歩兵が突撃するなど、正気の沙汰とは思えなかった。攻撃に参加した〈王国〉軍はそれこそ、アラトス家と同じ運命を辿るのではないか。
しかし2等兵であるリラには何の選択権も無かった。ただ命令に従って攻撃するだけだ。
リラは息を荒げながらも前を見つめた。敵迫撃砲から打ち上がる吊光弾の灯りの下で、白い帯を身に着けた将兵たちが動いている。
急に側方から閃光が走り、鋭い発砲音が連続して鳴り響く。赤紫色の曳光弾が横切り、白い帯が血の紅に染まった。
「伏せろ!」
サーテス伍長が叫ぶ。
リラはそれを聞くまでもなく地面の窪みに伏せた。空気の塊が頭部や背中を打つのを感じる。大量にばら撒かれた大口径の銃弾が上を抜けていったのだ。
「装甲輸送車の重機関銃だな」
サーテス伍長が舌打ちした。
〈帝国〉軍歩兵の重機関銃と装甲輸送車の車載機銃は同じ銃だが、銃声が異なるとサーテスは言った。
地面に据え付けられた重機関銃から聞こえるのは単調な発砲音の連続であるのに対し、装甲輸送車の車載機銃はややくぐもった音が混じるらしい。
「よく分かりますね」
リラは状況も忘れて素直に感心した。リラには全く区別がつかなかったからだ。
「俺は本当は音楽家になりたかったんだ。家が貧乏だったせいで軍人をやっているけどな」
吊光弾の光の下でサーテスが苦笑した。
よく言えば精悍で逞しい、悪く言えば粗野な顔つきの彼はとても元音楽家志望には見えないが、人は見かけによらないものらしい。
「さて、カタン2等兵、あの装甲輸送車を狙えるか?」
「狙えます」
サーテスが質問し、リラは短く応えた。
できればもう少し近づいてから撃ちたいところだが、このやり取りの中でも味方は先の装甲輸送車からの銃撃で次々と倒れている。悠長に忍び寄っている暇は無いと判断した。
リラの後ろで装填の金属音が鳴る。リラは慎重に狙いをつけた。
口径こそ同じだがこちらは単発銃、向こうは機関銃だ。見つかれば一瞬で挽肉に変えられる。
その機関銃から放たれる曳光弾の向きが、不意に横から斜め前方下側に変わった。
どうやら銃撃に晒されながらも匍匐前進している〈王国〉兵がいて、その兵を撃とうとしているらしい。
装甲輸送車の銃塔がこちらから見てちょうど真横になる直前、リラは無言でトリガーを引いた。
夜目に鮮やかな銃火が走り、曳光弾が飛んでいく。
すかさずサーテスが第2弾を装填し、リラは第1射の成果を確認する前に再び発砲した。
余計な動きはせず、1発でも多くの銃弾を敵に向かって撃ち込み続ける。それが結局は最も生還率を上げることを、リラはこれまでの戦いで学んでいた。
「やったぞ!」
3発目を撃ち込んだ所で、サーテスが声を上げた。
見ると敵機関銃は完全に動かなくなっている。装甲輸送車自体を破壊したのか車載機銃を無力化しただけなのかは不明だが、とにかく敵戦力から重機関銃1丁を引き剥がしたのは間違いない。
「前に出ましょう」
リラは努めて冷静な声で言った。
こうしている間にも味方は、銃火に晒されつつも前進を続けている。ここは彼らに続くべきだろう。
だが向こう側に走った多数の閃光とやや遅れて届いた大音響により、リラは一瞬で宗旨替えを迫られた。
慌てて地面の窪みに隠れ直す。不快な風切り音が迫ってくる。
それが極大に達したと感じた瞬間、周囲で数え切れないほどの爆発光が発生した。
目の前に何かが転がってくる。それを反射的に掴んだリラは慌てて手を離した。〈王国〉軍兵士が被るヘルメットだった。「中身」入りの。
「迫撃砲だな」
サーテス伍長が呻くように言った。
〈帝国〉軍の砲兵火力は前評判ほど大したものではなかったが、迫撃砲だけは別だ。1個大隊につき中隊規模の迫撃砲部隊がいる上、どうやら師団直属の重迫撃砲まであるらしい。
その迫撃砲が〈王国〉軍に向かって一斉に砲撃をかけてきたのだ。
迫撃砲弾の爆発は間断なく続き、リラの目の前で味方兵が次々と薙ぎ倒されていった。
彼らは砲撃が降り注ぐ中でも愚直に前進を、しかも密集状態で続けており、1発の迫撃砲弾によって数名が致命傷を負わされている。
爆発の閃光が走るや否や複数の人体が上に向かって吹き飛ばされ、関節部から引きちぎられた状態になって落下してくるのだ。見るに堪えない光景だった。
「みんな、伏せてください! 散開して隠れるんです!」
リラは叫んだ。
2等兵の自分が何を言おうと誰も聞いてはくれないだろうが、言わずにはいられなかったのだ。
「駄目だ。あいつらはその辺から根こそぎ動員された郷土防衛隊だ。戦いのやり方が分かってないんだ」
サーテス伍長が悲痛な声で言った。
ナサド市防衛に成功した〈王国〉軍であるが、敵制空権下で大規模な軍事行動を起こした代償は高くついた。戦闘後の各部隊は大半が半数近くにまで撃ち減らされ、丸ごと消滅してしまった部隊も少なくない。
〈王国〉軍参謀本部発表では「大勝」とされたナサド市防衛戦だが、その実はどちらが勝ったのか分からない程の損害を負わされたのだ。
では現在〈帝国〉軍に夜襲をかけている〈王国〉軍の大部隊はどこから来ているのかというと、西部から移送された部隊及び新規動員兵力である。
このうち西部からの部隊については一通りの訓練が済んでいるが、問題は新規動員兵力だった。
郷土防衛隊と仰々しく呼ばれている彼らであるが、要は素人集団である。普段は街で自警団や消防団などをやっている人々で、軍事訓練は週末に集まって1刻程受けるだけだ。
つまりは銃をまともに扱えるかも怪しいし、数十人規模以上での集団行動を取ったこともない。
そんな人々を使って、〈王国〉軍は夜襲を行っているのだ。
彼らは恐らく「集団で前に進め」という指示を受けているだけであり、実際それ以上の行動も取れないだろう。サーテス伍長は苦々し気に言った。
各自に自己判断で行動させれば逃げ散ったり、闇の中で迷子になるのが目に見えている。だからとにかく敵に向かって前進させるしか、使いようが無いのだと。
「酷い話だ」
リラは殆ど泣きたくなった。
これでは軍閥割拠時代の消耗兵と変わらない。〈王国〉政府にとって〈王国〉人の生命とは随分と軽いものであるらしい。
「そういう国なのさ。〈王国〉というのは」
サーテスが吐き捨てる。
〈王国〉とは近代国家というより、〈王国〉語を話す人間が住む地域の名前でしかない。〈帝国〉人や〈諸侯連合〉人がよく言う悪口だが、はっきり言って大正解だというのだ。
最強の軍閥である首都県が他の県を強引に従えることで〈王国〉は成立しているのであり、首都県の人間は他県の人間を手駒や消耗品としか思っていない。
〈帝国〉に見られる「我らは皆、皇帝陛下の臣民」という意識や、〈諸侯連合〉が掲げる「市民としての平等」という理想は無いのだ。
だから他県の人間がどれだけ死のうが、首都県の政府は何も感じないのだと。
「後100年はかかるだろうな。〈王国〉が本当の意味で国になるには」
サーテスがぼそりと言った。
前方では発砲炎とは違う閃光が走り始めている。どうやら〈王国〉軍砲兵がようやく戦闘に介入し始めたらしい。
〈帝国〉軍も撃ち返すが、流石に野砲や野戦重砲と迫撃砲では命中率も射程も比べ物にならない。推定数千の〈王国〉兵を薙ぎ払った〈帝国〉軍迫撃砲は徐々に沈黙していった。
「さて進むぞ。カタン2等兵。この偉大なる国の為に」
サーテスが諧謔とともに対戦車銃を持ち上げ始める。
リラも慌てて味方の血で滑る銃を担いだ。一体どれだけの被害を出しているのかは考えたくもないが、とにかく〈王国〉軍は前進していた。
その頃、セレス港方面でも〈王国〉軍の反攻作戦は開始されていた。
セレス県制圧を完了し、隣のイサガト県に進もうとしていた〈帝国〉軍に対し、〈王国〉軍が夜襲をかけてきたのだ。
〈帝国〉軍の高官たちは最初これを単なる悪足掻きと見做していたが、敵の数が判明し始めるにつれて顔色を変えた。
ただの散発的な夜襲ではなく、数十万の軍による大規模な攻撃と判明したのだ。
「どういうことだ? 何故それだけの敵軍の移動を見つけられなかった?」
眠っている所を叩き起こされた〈帝国〉海軍第4艦隊司令官のセティア・レイ中将は、報告を聞いて唖然とした。
セレス県周辺の制空権、いやアテスク半島全土の制空権は〈帝国〉軍が完全に握っている筈だ。〈王国〉軍はどうやって、数十万もの兵力を秘密裏に移動させたのだろう。
「恐らく列車とともにありったけの車両を民間から徴発し、夜間に移動させたのです。こちらの偵察機は昼間にしか役に立ちませんから」
副司令官のカト・コボロス少将が苦々しい口調で言った。
アテスク半島は確かに〈帝国〉軍の制空権下にあるが、それは必ずしも〈王国〉軍が部隊を移動させられないということでは無いというのだ。
何故なら〈帝国〉軍が〈王国〉軍の部隊移動を監視して妨害できるのは、基本的に昼間に限られるからである。
海軍機は夜に飛行できない。また空軍機にしてもただ飛べるだけであり、陸路を移動中の敵軍を見つけられる訳では無いというのだ。
「霊波探知機や磁気探知機があってもか?」
セティアは愚かな質問かもしれないと思いつつも聞いてみた。
空軍の94式重爆撃機は夜間にも哨戒飛行を実施している。
その94式重爆には霊波を発振して返ってきた霊波のパターンから目標を見つけ出す霊波探知機が搭載されている。地磁気の乱れを調べることで不自然な鉄製物体が無いかを監視する磁気探知機もある。
それらを以てしても、敵軍を発見できなかったのだろうか。
「霊波探知機や磁気探知機が有効なのは空中や海上だけです。地上を動く敵軍は見つけられません」
コボロス少将が答えた。
これらの探知装置が役に立つのは他に何もない空間で、艦船や航空機などの比較的大きな物体を探す時だけだというのだ。
地上という複雑な環境で、車や列車などの小さな目標を見つけるには向いていないと。
「ついでに申し上げますと、目視による確認もできません。夜の高空から車列を見つけるのはまず無理ですし、低空に降りれば敵の新型高射砲に撃たれますから」
「ああ分かった。要するに空軍や海軍航空隊が敵軍の移動を監視できるのは昼間だけということだな。そして敵は夜に軍を動かしたので見つけられなかったと」
セティアは顔をしかめながら言った。これ以上この話題を続けても得るものはないと直感したのだ。
「それで我が第4艦隊としてはどう動くべきだと思う? 貴官の意見が聞きたい」
セティアは続いて質問した。より正確に言えば指示を求めた。
19歳の自分がお飾り司令官であること位は分かっている。実質的な司令官であるコボロス少将の考えに従って、第4艦隊は行動するべきだろう。
(私は姉上にはなれないのだ)
異母姉妹であるカズリナ・リーン陸軍大将の軍服姿を思い浮かべながら、セティアは内心で思った。
セティアとカズリナは、母親が違うとは思えないくらいに外見上はそっくりだ。しかし中身には大きな差があると、セティアは感じていた。
カズリナが何の贔屓も受けずに陸軍士官学校を上位の成績で卒業したのに対し、セティアはほぼお情けで海軍士官学校を卒業させて貰っている。
カズリナが筆記試験でも模擬演習でも優秀な成績を収めたのに対し、セティアは皇族で無ければ退学を言い渡されるような結果しか出せなかったのだ。
皇族系の軍人など、どうせお飾りなのだからそれでいい。そう思おうとしたこともある。
しかしどうしても、セティアの前にはカズリナの影がちらついた。
世間的な人気や評価はセティアの方が遥かに高い。皇族系軍人(特に海軍)の仕事は主に、外国への表敬訪問やパーティーの主催だからである。
この手の職務には軍才は無用であり、皇室教育で教えられた通りの言葉を喋ればいいだけだ。セティアはこれを完璧にこなすことができ、逆にカズリナにはできない。
しかし純粋な軍人としては、自分はカズリナにどうやっても叶わない。セティアはそう実感せずにはいられなかった。
士官学校卒業後の後の任官先でも、両者の違いは歴然としていたのだ。
カズリナが実力で部下たちを統制していたのに対し、セティアは参謀長や副司令官などに職務を丸投げすることしかできなかった。
セティアがたまに自分の考えで何かをやると必ず失敗し、結局は彼らに尻拭いをさせることになった。
その一例が、2人が士官学校を卒業して約3か月後に行われた御前演習である。
この演習でカズリナは陸軍1個大隊を、セティアは海軍陸戦隊の1個大隊を指揮した。
その頃のセティアはまだ自身の軍才に絶望しておらず、自分で部隊の指揮を執った。そしてカズリナに大敗を喫した。
演習の裁定官が首を傾げる程に酷い負け方で、セティアの大隊は文字通りの意味で全滅したと判定された。装備や練度では海軍陸戦隊の方がずっと上だったにも関わらずである。
セティアは演習後に部下たちに詫び、二度と自分で指揮を執るようなことはしないと誓った。誓わざるを得なかったのである。
この誓いを、セティアは今も守っている。重要な意思決定は副司令官のカト・コボロス少将に任せ、絶対に独断では第4艦隊を動かさないのだ。
「できることはほぼありません」
「は、何だと?」
しかしセティアはそのコボロスの返答を聞いて唖然とした。
思わず、コボロスがセティアの無知を揶揄しているのではないかと疑った程だ。
だがセティアはすぐに考えを改めた。
皇族だという理由だけで司令官をやっているセティアを、コボロスが内心で軽蔑している可能性はある。しかし彼はこの状況下で、そんな感情を優先する程に愚かな人物でも無い筈だ。
「何故できることが無いと貴官は思うのだ?」
「戦闘が起きているのが20里(約80 km)以上向こうだからです。本艦を含むいかなる軍艦の砲も、そんな距離まで砲弾を飛ばすことはできません」
コボロスが説明した。
セティアの旗艦である戦艦〈アズメト〉は〈帝国〉海軍が誇る新鋭戦艦であり、世界最大級の艦載砲である52口径28寸(約42 cm)砲を搭載している。しかしこの砲の射程は最大12里(約48 km)だ。
そして現在の主戦場は沿岸から見て大体25里(約100 km)、最も近い位置でも21里(約84 km)向こうにある。これでは敵軍に砲弾が届かないというのだ。
「それではどうしようもないか……」
セティアは黙りこくるしかなかった。
第4艦隊は純粋な水上砲戦部隊であり、保有する最長射程の兵器は戦艦主砲だ。それ位はセティアでも知っている。
その戦艦主砲が届かないならセティアが、というか第4艦隊がやれることは何もない。
「妙な色気を出してイサガト県まで進出したのが祟りましたね。計画通り、タタ方面軍との合流を最優先にすべきでした」
コボロスが呟く。
セレス港方面軍は本来、タタ方面軍と合流した後に〈王国〉首都を目指す予定だった。
しかしそのタタ方面軍はナサド市攻略に失敗して後退した。
「群青」計画に従うなら、セレス港方面軍はこの時点で活動を休止し、その場に待機するべきだっただろう。
しかしセレス港方面軍司令部は積極策を取った。タタ方面軍が合流出来ないなら、自分たちだけで首都に向かうと決断してしまったのだ。
その結果がこの惨状だと、コボロスは苦々し気に言った。
過剰に展開し、戦艦主砲による火力の傘の外に出たセレス港方面軍地上部隊は、〈王国〉軍の思わぬ反撃を喰らってしまったのだ。
「済まない。私の責任だ」
セティアは項垂れた。
セレス港方面軍司令部の方針決定会議にはセティアも出席している。流石に重要な会議に副司令官を代理出席させる訳にもいかなかったからだ。
その会議でセティアは、第4艦隊の現状報告以外には特に何の発言もしていない。より正確には敢えてしなかったのだ。
セティアとしては会議の流れで決まったセレス港方面軍単独での首都攻撃は無謀ではないかと、直感的に思いはした。
しかし居並ぶ他の将星たちに比べれば素人に等しい自分が意見すべき事でもない。きっと彼らには勝算があるのだろう。
セティアはそう自分に言い聞かせ、セレス港方面軍司令部の〈王国〉首都攻撃案を素通ししてしまったのだ。
あのときセティアが明確に反対を表明していれば、少しは違った結果になったかもしれない。
「姉上なら……」
セティアは誰にも聞こえない程度の小声で呟いた。セティアではなくカズリナがあの場にいれば、結果は違っていたのだろうか。




