二日目 神島へと 2
「おっはよー!」
待ち合わせの時間よりもかなり早く、葵がやってきた。
「連絡おせえよ。つか、明け方にうってくんな」
秀司が文句を言いつつ、これもいつもより早く到着した。
で、美香だけがいつも通り、遅刻だ。
「あいつの遅刻癖は、治らないな」
「ま、あれはあいつのこだわりだしな」
秀司の呟きに俺はさらりと返す。そんなことはみんなわかっているので、誰も突っ込まない。美香の遅刻はそれほどこのグループに固執していない、という最初の頃の意思表示だ。そして今でも意地になって続けている。
遅刻癖のある奴が、毎週足繁く神戸まで通って、それでも無理を押して俺たちと一緒にいたりするもんか。
「おはよー」
当人は、みんながそれをわかっていることもちゃんと知って、それでも自分の流儀を貫いて、今日も遅れてやってきた。
「じゃ、行くか」
美香を最後尾に、既にエンジンをかけ始めている船に乗る。小さな船だが、それなりにスピードは出る。神島までは確か三十分くらいだ。
動き出した船の中に入らず、デッキで俺たちは景色を眺める。段々と神津市が遠くなっていく。小さな地方都市。それなりにビルも建っているが、新しいものはほとんどない。
ゆっくりと、枯れていく街。来週からは遠ざかったきり、戻ってくることもそうないのだろう。
「たまには船もいいもんだね!」
葵が上機嫌で騒いでいる。俺たちの他には客もおらず、葵の声がよく響く。
「そうねー。そういえば五人で船に乗ったのは初めてだっけ?」
「いや、秀司の家の船に乗せてもらっただろ」
「あ、そっか。そうだったね」
忘れたのか? 俺はみんなでやったことで忘れたことなんて、一つもないけどな。
俺が漠然とそんなことを考えていると、美香が大きなバスケットを差し出してきた。
「はいこれ」
「ん?」
「みんなのお弁当、作ってきたから。持っといて」
「何で俺が?」
「だって重いもん」
確かに五人分だと結構な大きさだな。しかしマメな奴だ。
「秀司、途中で代われよ」
「ああ
」
とりあえず秀司に釘を刺してから、バスケットを受け取る。美香の言うとおり、それなりに重い。
「何作ってきたんだ?」
「ないしょ~」
くすくすと楽しそうに美香が黙秘を宣言する。
俺は追及を諦めて、次第に大きくなってくる島を見つめた。
神島。全周約四キロ。人工は五百人を少しきるくらい。それなりの数が暮らしている島だが、これといって特徴はない。強いて言えば、やや起伏が激しいことがある。最も低い場所は岩で出来た浜で、最も高い場所が天美山と呼ばれている、標高二百メートル程の山。
以上、貴子調べ。
「そろそろね」
貴子が呟くとほぼ同時に、船が減速を始めた。ゆっくりと、視界に入る埠頭へと寄っていく。
どん、と埠頭のゴムタイヤに当たる音がして、もやいがかけられる。
船に小さなデッキが渡されて、俺たちは神島に降り立った。
空は変わらず快晴。絶好の探索日和だ。
全員が船着場から外に出終えたところで、貴子を見た。
貴子は四対の視線に怯むこともなく、口を開く。
「まずはなるべく外周を歩いてみましょう。大体の感覚をつかみたいわ」
「えー、四キロも?」
美香が不満を述べるが、当然のように貴子は黙殺する。
「だいじょぶだいじょぶ! 大したことないって、四キロくらい!」
「葵みたいな規格外と一緒にしないでよー」
かわりにけらけらと答える葵に美香は呆れを混ぜて返すが、それ以上の不満は言わない。
「じゃ、疲れたら良介おぶってね」
俺に振るな。
「却下だ、却下」
「えー、ひどいなあ。男の役目でしょ?」
「何でも男の役目にするなって」
美香がぶつぶつと言うのをあしらって、俺は秀司と並んで歩き始める。
しかし何で俺に変な絡み方するかね、こいつは。
俺の勝手で、捨てられたんだぜ? それでこうやって、仲良く友達やっているだけで奇跡なのに、何か今でも俺に好意を持っているように見えるんだよな。
いや、見える、ってのは違うな。
美香はまだ俺に好意を持っている。俺はそれほど鈍いやつじゃない。
ただ、それに応えることができないから、鈍い奴を装うしかないだけだ。
昨日秀司に言われたように、はっきりさせるべきなのか?
答えを出すなら、この一週間しかないわけだが――
出来れば触れずに起きたい、ってのは我侭かね?
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