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一日目 終わりの始まり 5

 だべっているだけでも、時間はたつし、腹も減るということで、俺と秀司は買い出し部隊を結成し、コンビニに来ていた。

 適当にパンやら弁当やらを買い込んで、砂浜に戻る途中で、不意に秀司が口を開いた。


「なあ、お前さあ。美香とより戻すの?」


 その言葉に俺は面食らった。なんでだよ。


「いや、それないわ。なんでよ?」

「さっきの会話、丸聞こえだったぞ」

「え? マジ? うわ、死にてえ」


 俺が頭を抱えても、秀司は笑わなかった。


「つか、はっきりさせといたほうがいいんじゃねえの?」


 何でこいつこんな真剣モードなんだ? とは思うものの、秀司が真剣なら、俺も真剣に答えざるを得ない。


「今更、ありえないって。どうして別れたかとか、わかってんだろ?」


 俺の言葉に、秀司が頷く。


「まあな。お前はそうでも、美香はどうかな、って思ってさ」

「美香もわかってると思うけどな。だけど、あいつの本音は、あいつにしかわかんねーよ」


 俺は秀司の眼を見ずに、そう答えた。秀司が沈黙したところで、攻撃してみる。


「お前だって、いつか好きな子いるって言ってたじゃん。告白したのか?」


 しかし、秀司は寂しげに首を振る。


「してねえ。今更だろ。大学入ったら自分のことでいっぱいいっぱいだろうしな。別れるの前提で告白して、つきあって、どーすんだ?」


 まったくだな。そういうことだよ。


「だろ? みんなそうだろうよ」

「……ああ、そっか。そうだな」


 気のせいか、風が冷たくなってきた気がするな。

 歩きながら西の空を振り返ると、厚い雲が牡鹿山脈の上を通り過ぎていた。

 ホントに一雨くるかもな。せめて荒れなきゃ、いいんだが。

 



 弁当を食べてしばらくは、俺の願いは叶った。

 だが、それが限界だったらしい。まったく、信心が足りないのかね。何のかは知らないが。

 要するに、雨が降ってきたんだ。背景音楽には雷のおまけつきだ。

 俺たちは逃げるようにして、とりあえずシーズンオフの今は使われていない海の家の軒先に避難することにした。

 貴子は傘を持ってきていたらしく、美香と二人、相合傘で悠然と歩いているが、残りの俺たちはダッシュだ。

 泳ぐのと走るのなら、俺が一番早い。いち早く軒下に入り込み、海を見ると、見事に鉛色に変色し、波も荒くなっていた。

 その波の中で、何かが光った気がする。気のせいか?

 葵と秀司が到着する。俺はお疲れ、とだけ声をかけた。雨は土砂降りに変わり、貝殻だらけの砂浜は、土へとその姿を変えていた。

 キラリ、とまた何かが光った。俺にはそう見えた。

 気のせいだろう。気のせいだと思う。でも。

 ――気になって、仕方がない。

 最後の七日間ということが、俺のテンションをおかしくしているのだろうか。

 俺は、どうしても今確かめなきゃいけない気がして、軒下から飛び出した。

 キラリ、と波の向こうでまた何かが光る。


「おい、良介! どこ行くんだよ!」

「何か光ってる!」


 背中にかかる秀司の声に、俺は振り返りもせずに答える。

 ざああ、と雨の音だけが響く中、俺は夢中で走り続ける。僅かに遅れて、葵がついてきていた。


「へっへっへー。つきあうよ」


 大雨の中、妙に楽しそうな声に俺は頷いた。


「俺も混ぜろって!」


 大声をあげながら、馬鹿な奴が、もう一人来ていた。


「ちょっと!何やってんの!」


 貴子が珍しく大声をあげて、傘をさしながら歩いてきていたが、俺は無視した。


「風邪ひくよー!」


 至極まっとうな、美香の言葉もやはり無視。

 俺は、確かに光ったはずのそれを探す。だが、見つからない。


「このへんなのね!」

「間違いないんだろーな!」


 葵と秀司が雨の音に負けないように、怒鳴りながら探し始める。

 間違いない、あるはずだ。絶対に、何か光った。


「何やってんの! 戻りなさい!」


 砂浜の半分くらいまで来たところで、貴子が再び大声を上げる。

 俺は今度は無視せず、雨に打たれながら反論する。


「何か光ったんだ! 気になるだろうが!」

「馬鹿なこと言ってんじゃない!」


 珍しく怒りを露にする貴子に、隣の美香は驚いたようだったが、貴子は構わず続ける。


「最後の一週間なのよ! ベッドの上で過ごしたいわけ!」

「これくらいのことは、いつもやってきただろうが!」


 探す手を止めず、正論の貴子に俺は反論する。誰も口を挟まない。


「馬鹿やって! 一週間をふいにしたいの? そんな程度のものなの!」


 それは恐らく、滅多に聞くことの出来ない貴子の本音。この居心地のいい場所を、大切に思っている証拠。

 だけど、俺はそれでもこう叫ぶ。


「馬鹿やろうぜ! いつもやってきたみたいにさあ! 最後なんだから! 忘れられないくらい、思いっきり! 馬鹿やろうぜ!」


 ばさり、と貴子の傘が落ちた。貴子と美香が、雨にさらされる。長い黒髪に隠されて、貴子の表情は見えない。


「この……大馬鹿! そこで待ってなさい! その頭叩きなおしてやるわ!」


 宣言とともに、貴子が傘も持たずに走ってくる。

 わずかに遅れて、美香も笑いながら走り出す。

 これで五人とも、馬鹿なわけだ。

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