表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/36

五日目深夜 それぞれの想い

「ふう」


 二人を玄関で見送って、わたしの口から漏れたのは溜息だった。彼女たちがあいつに好意、いや恋心を持っているのはもちろん知っている。

 けれど、それならどうしてわたしのところに来たのだろうか。わたしは彼女達にとって、最大の障害のはずだ。楽園の中で、わたしは一番あいつに近い位置にいたのだから。

 だったら、わたしとあいつが揉めたことなど、放っておけばいい。

 楽園だって、もう終わるのだから。

 わたしなら、放っておく。一番自分に有利な状況を作るために。


「バカね、二人とも」


 感想を、口に出して呟いてみる。その声音に優しさしか込められないことに、あたしは苦笑した。

 理由は、分かっている。

 わたしも、バカだから。

 結局二人の言葉に、心に押されてわたしは明日の計画に乗ってしまった。いつも計画を立てていたあたしじゃない、二人の大切な親友が立てた計画に。

 それは、わたしには辛い結末を引き出すだろう。もちろんそれは、あいつを突き放したあたしのせい。

 わたしが望み、あいつとの鎖を絶ったせい。

 わかっている。

 もちろん、わかっている。

 だから、受け止めよう。明日、何が起きても。

 それで受ける痛みは、あいつを痛めつけた、わたしへの罰なのだから。

 家のドアに手をかけながら、何気なく見上げた空には、月が輝いていた。

 できれば、太陽が見たいな。

 柄にもなくそんなことを考えて、わたしは思った。

 ――ああ、やっぱり、わたしもバカだ。




 貴子からのメールを読み終えても、俺は携帯を離さなかった。右手に握り締めたまま、息を深く吸って、吐く。

 三回ほど繰り返して、画面を見つめる。ゆっくりと指を動かす。発信ボタンを押して、耳に当てる。


「はいはーい」

「よう」


 相手はすぐに出た。俺は短く挨拶し、要件を告げる。


「話があるんだ。これから会えないか?」

「こんな時間に? 明日じゃダメなの?」

「明日じゃ遅いんだよな」


 俺の返事に、電話口の相手は僅かに沈黙した。


「いいよ。でも、何の用?」


 多分、わかって聞いてきているのだろう。相手はそんなに鈍いやつじゃないことを、俺は誰よりも知っている。


「みんな動いているのに、俺だけ動かないのはおかしいだろ?」

「あー、やっぱりそういうこと? 良介にはマイナスだね、それ」


 俺もそう思う。引っ掻き回すことになるだけだ。けれど。


「あいつはいいって言ってたぜ?」

「うわー、何それ、サイテー」


 相手の文句ももっともだ。けれど、それでも。


「まあ、あいつが何て言っても関係ない。これは完璧に、俺の問題だ」


 俺は力を込めて言う。相手は沈黙して、続きを待っている。

 最後の最後で、引っ掻き回すことになるだけだ。相手を、困らせるだけかもしれない。

 けれど。それでも。

 ――伝えたい、想いがある。


「周りのことなんて関係ない。俺はお前がーー」


――この胸に、熱く、熱く、もうずっと。


「……会って、ちゃんと聞くよ」


 相手の口調から、ふざけた調子が消えた。


「ああ、ありがとな」


 待ち合わせ場所を決めて、通話を終える。

 俺は俯くこともなく、ただ携帯をポケットに入れて、歩き始める。

 力強く、前へ、前へと足を運ぶ。

 俺の歩みは段々と速くなり、やがて駆け出した。

向かう先はもちろん、ただ一つ。

 榊美香のいる場所へ。




 いつか彼と話したファーストフード店で、あたしは彼を待っていた。甘い炭酸飲料を口に含むけど、何の味もしない。

 彼の気持ちには気づいていた。

 きっと、ここで話した時から、その気持ちを育てていってくれたんだと思う。

 苦しかっただろう。辛かっただろう。

 あたしは、けれど気づいて甘えていた。

 それは、彼じゃない別の男の子を振り向かせるために、あるいはもう一度振り向かせるために必死だったから。余裕がなかったから。

 でも全部、言い訳なんだ。

 あたしも言い訳しながら、楽園で遊んでいたんだ。

 だから、今更、なんて思う資格はあたしにはない。

 ちゃんと、受け止めよう。答えを返そう。

 それが、あたしのために苦しんでくれた彼に対してできる、あたしの精一杯なんだから。


「待ったか?」


 声がかかった。見上げると、いつの間にか彼が来ていた。

 息が、弾んでいる。


「外、歩かないか?」


 けれどもそれを気づかせないように、平静を装って、彼は誘う。


「ここでいいよ」


 あたしはそれを、否定する。凄く嫌な女の子だと思う。でも、そうしないといけない。

 だってあたしは、嫌な女の子だから。


「いや、でもな……」

「場所を選ばなきゃ言えない程度の、決意なの?」


 相手の逃げ道を塞ぐ。彼が息を飲んで、わかった、と頷いた。

 なんて真っ直ぐな男の子。

 笑い方も、喋り方も、目の合わせ方まで計算することのあるあたしとは大違い。

 ――きっと、釣り合わないよ。

 そう思っても、もちろん彼は言ってくる。真っ直ぐに。

 この最後の一週間で、あたしを含めたみんながそうするように。

 楽園のために先延ばしにしてきた自分の気持ちに、一つの決着を。


「俺は、お前のことが好きだ。あいつじゃなくて、俺を見てくれ」


 あたしはその彼らしいストレートな言い方に笑顔を浮かべた。

 けれど、それであたしの心が彼に向くわけじゃない。

 だって、あたしの頭を占めているのは、辻秀司じゃないから。

 目を閉じて浮かぶのはいつも同じ顔。

 ずっと傷ついてきて、弱くて、放っておけない。でもそれだけじゃない。

 本当はとっても優しくて、友達想いの彼の顔。

 ごめんね、とまず心の中で謝って――

 あたしは答えを返した。




 家に帰って、お風呂に入ってから、あたしは一人部屋に戻った。

 携帯電話を見ると、もちろんモーニングコールにはまだ早い時間だ。

 意味もなく携帯をいじってから、放り投げる。ほとんど音を立てずに携帯はベッドに落ちた。


「あーあ」


 あたしがベッドに身を投げると、ぼすん、と音がした。


「結局あたしはピエロだね! しょうがないけどね!」


 寝転がったまま、一人で愚痴を吐きこぼす。

 そう、あたしはピエロだ。勝手に彼を好きになって、勝手に勘違いして、そして見事に振られた。

 二人は、振られていないのに。まだ、選択肢の中にいるのに。

 あたしは、焦って答えを求めて振られた。楽園の最後の一週間を、早い時点で台無しにした。

 けれど、それももう終わる。一日を残して、明日で多分すべてに決着がつく。

 美香が計画して、あたしは賛成した。

 それで貴子を説得して、貴子は一つの情報をくれた。

 それは多分、あたしにしかできない。

 そう、美香にも貴子にもできない。

 それは、彼の背中を少し押す、助けになると思う。頭の悪いあたしでも、想像できる。

 でも、押す先は、あたし以外の二人の方向なんだ。

 それがちょっと、悔しいし、悲しい。

 視界が歪んで、泣きそうになっていることに気づく。

 みっともないなあ、あたしって。

 自分を馬鹿にして叱咤するけど、頬が濡れていく。枕に顔を押し付けて、しばらく無言でいると、一つの言葉が甦った。

――これからも友達としてよろしくね!

そうだ、あたしは確かにそう言った。負け惜しみの部分もあったけど、あの時心からそう思えたから、言ったんだ。

あたしはもう選択肢じゃない。

けれど、友達としてできることはまだあるはずなんだよね。

ねえ、そうでしょ? 良介。


「任せといて! あたしがきっちり、お膳立てしてあげるからね!」


 一人そう叫んで、ベッドから勢いよく立ち上がる。

 再び、頬を熱いものが伝った。

 そして、あたしは決意する。

 これを、最後の涙にしよう、って。



 しばらく時間が過ぎ、その涙が止まった時、あたしは決意を込めて、スマホを手に取った。

 時間はもう深夜を過ぎている。それでもすべてが終わるにはまだ、時間は残っていると信じて。

お読みくださりありがとうございます。

面白い、続きが読みたい、と思ってくださった方はぜひブックマークや(・∀・)イイネ!!をお願いします。

皆様の評価がモチベーションです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ