四日目 榊美香 エピローグ
壁から大きめの空真珠を失敬して、俺と美香はその明かりを頼りに洞窟を出た。それほど時間はたってないはずだが、見上げる空はずいぶん久しぶりな気がした。
雨と雷をもたらした黒い雲はまだ神島上空でその役目を果たしていたが、西の空には青空がある。もう、雨もやむだろう。
俺と美香はとにかくみんなと合流すべく、お互いのびしょ濡れ姿を笑いながら、船着場へと向かった。
連絡がつかない場合の集合場所には、二人の少女が立っていた。貴子と、葵だ。
「お、良介ー! 美香ー!」
葵がこちらに気づいて手を振ってくる。美香がそれに手を振り返す。
一方の貴子は冷めた眼でこちらを見てくる。怖いっての。
「無事だったみたいね」
「まあな。けどスマホ壊れた」
「はあ?」
珍しく戸惑った声を出す貴子に、俺は見つけたものを説明した。貴子の眼が、すう、っと細くなる。
「へえ。そんなものが、ね」
何かを考え始めた貴子に、俺は今気づいたことを尋ねる。
「そういえば、秀司は?」
「秀司なら二人を心配して探しに行ったよ!」
葵が教えてくれたが……おい。
「電話して呼び戻してくれ」
「おお! そういやそうだね!」
気づけよ、そこは。俺の内心のツッコミをよそに、葵がスマホを取り出してかけ始めた。
しばらくして、秀司が戻ってきた。ずいぶん早くから探してくれていたのか、傘を持っているにも関らず、びしょ濡れだ。
「悪い。電池切れてた」
「気にすんな。何もないならいいってことだ」
謝る俺に秀司は明るく笑った。そして、美香に視線を向ける。
「美香も、なんとも……ってびしょ濡れじゃねえか!」
「んー、大丈夫だよ、これくらい」
美香がぱたぱたと手を振る。というか、俺も濡れているんだが。いや、心配してほしいわけじゃなくてな。
「良介、お前まさか……押し倒したのか?」
「ええっ! 最低だよ良介!」
「なんでだ」
意味のわからないことを言う秀司と、それにあっさりと乗る葵の二人に冷めた言葉を返して、俺は美香を見た。
「確かに、それじゃ風邪ひくかもな。今日は引き上げたほうがよさそうだ」
「みんな心配性だねー。まあ心配するのも男の役目だけど」
美香がクスクスと笑う。葵がむう、と何故か面白くなさそうな顔になる。
そんな中、貴子だけが何かをずっと考えていた。
「おい、貴子?」
「え? ごめん。聞いてなかった」
「いや、結構みんな濡れてるし、今日は引き上げないか?」
「そうね」
俺が繰り返すとあっさり頷いて、また黙考に戻る。駄目だ、これは。ほっとこう。
俺がそう結論づけると、全員同じことを考えたのか、そっと貴子から離れて喋り始める。
しばらく待って、船に乗り込み、神津市へ戻って、船から下りると。
「ちょうどいいや。良介。ちょっとつきあえ」
秀司が声をかけてきた。なんだ、そのマジな眼は。
「ん? マジっぽい話か?」
「いや、銭湯行こうぜ」
それだけか……そんなはずねえな。眼が全然笑ってないからな。
「オッケー。行こうぜ」
だから俺は誘いに頷く。まだまだ今日は長そうだ。
二人の視線がわずかにぶつかり、唇の端に笑みを浮かべる。
「あ! あたしも行きたい!」
だが、空気を読まずに葵が挙手して、
「じゃああたしも行く」
明らかにわざと美香も賛同した。
こうなると貴子は多分、無言でついてくるだろう。
「……え、みんな行くのか?」
「ついでに秀司の家でみんなでご飯食べよう!」
ちょっとへこんでいる秀司に、葵がさらに無自覚な追い討ちをかける。いや、確かに秀司の家は銭湯から近いよ。んで、親父さんは滅多に家にいねえよ。
けど、空気読めよ。
「あ、じゃああたしが鍋作る」
わかっていてかき回す小悪魔もいるし。グダグダだ。
「じゃあ、みんなで行くか」
「そうだなー」
俺がそうまとめざるを得なくなって言うと、秀司は明らかに投げやりな声で賛同した。
着替えがいる、と美香が主張したので、二時間後に現地集合、となんかそういうことになった。
「……で、話は?」
「もういいや、飯の後で。泊まってけ」
「ああ。そうするわ」
物語も折り返しです。今後もおつきあいいただければ嬉しいです。
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