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三日目 高橋葵 5

キネノベの締切が5月末なのにまだ三日目が終わってないことに気づいたので、更新頻度を増やします。ほぼラストまで書きあがっているので行けるはず。

 潮風で草が揺れる中、俺と葵は見つめ合う。さっきまで心地よかったはずの風が、今は妙に不快に感じる。

 葵が大きく息を吸うのがわかった。


「あたし……」


 俺は黙って続きを待つ。ああ、楽しかった日々ももう終わりか。

 友達は、友達じゃなくなるのか。


「あたしは、良介が好き」


 できれば聞きたくなかったその言葉は、小さくもはっきりと俺の耳に届いた。

 終わりだ。最後までみんなで笑っていたかったのに。

 楽しいことだけで、この一週間を満たしたかったのに。


「なんで、今更?」


 だから俺の返事も頼りないものだった。答えをすぐに返さないのも、我ながら呆れたもんだと思う。

 それでも葵は真摯に答えてくれる。


「本当は、最後の日に言うつもりだったの」


 だから、何で、今更、なんだよ。


「でも、良介と二人でいたら、色々思い出して。大好きだって気持ちが抑えきれなかった」


 俺は何も言わない。少女の言葉だけが風に舞う。


「今言わないと! この勢いを借りないと! あたし言えない!」


 葵の瞳に再び涙が浮かぶのがわかる。それでも、こいつは言葉を止めない。


「負けるとわかってても! 決着つけなきゃ先に進めない! でも! 無理だってわかってて、普通になんて言えるわけない! あたし、そんなに強くない!」


 ああ、そうか。ようやくわかった。

 今更、なんて思っているのは俺だけなんだ。

 葵にとっては、この一週間が終るまでに、言わないといけないことだったんだ。

 想いに区切りをつけるために。すべてに別れを告げるために。

 葵が女性陣の中で最後に進路を決めたことを思い出す。きっと、ぎりぎりまで迷ったんだ。

 葵の実力なら、東京の大学だろうがどこだろうが、望むままなのだから。

 それでも、俺が行く可能性の高そうな東京を、選ばなかったのは、俺の答えを予想していたからなんだろう。

 そうだな、俺はお前のことを親友だと思っているけれど。

 好きな女、じゃないんだ。俺にそんな資格はないんだ。

 だから俺は返事をする。


「悪いな。お前のことは親友だと思ってる」

「男と女の友情なんて、あると思う?」


 俺の答えにすぐに疑問が返ってくる。俺は逃げずに答えてみせる。想いを受け取れずとも。

 俺の、心からの誠意で。この眩しくも脆い、親友に――

 ――せめて最後の贈り物を。心からの感謝を。


「あるさ。俺は、俺たちはずっと。五人親友だったじゃねえか」

「恋愛感情かもしれないじゃん」

「誰か一人を選ぶのが、恋愛感情だっていうなら、俺はそんなものいらねえ」


 俺の返答に、葵は瞳を潤ませながら、それでも苦笑を浮かべた。


「お子様だね、良介」

「かもな」


 俺も苦笑で答える。葵は何も言ってこない。ただ、涙だけがぽたぽたと、朝露のように草を濡らす。

 これで、終わりだ。明日から、どうするか?

 俺が虚脱感に飲み込まれそうになっていると、目の前の少女は、泣いたまま手を差し出してきた。

 眩しくも、脆く、そして優しい少女は、俺に手を差し伸べてくれる。


「しょうがないな! あたしの負けだ! これからも友達として、よろしくね! 良介!」


 泣きながら笑顔を浮かべて、明るく俺にかけてくれるその言葉は、きっと、必死の思いで言ってくれているんだろう。

 だからいいのか? なんて聞かない。俺はそれに、甘える。

 それで葵はまた傷つくのだろうか? そうかもしれない。そうでないかもしれない。


「ああ、よろしくな。東京に遊びに来てくれ」

「もちろん! 良介もオリンピックまであたしの応援に来てね!」

「ああ、もちろんだ」


 俺たちはしっかりと握手をする。それは絶対に、男と女の愛情表現じゃない。

 親友との、絆だ。

 この親友に、心からの感謝を。これからも続く友情が、無限に続くことを願って。


「ありがとうな」


 あるいは葵を傷つけるその言葉を――


「うん! いーってことよ!」


 彼女は笑って、受け取ってくれた。

 同時に、一際大きな雫が、草を揺らして地面に落ちた。



 俺は今度こそ、葵がつまずいたものを確認しようと屈みこんだ。すぐ隣に葵も屈みこむ。

 それは、僅かに隙間のある、近くも遠い位置。まあ、これくらいが俺たちの距離なんだな。

 がさがさと音を立てて草をどけると、人一人が腰掛けられるほどの石がある。


「ねえ! 良介!」


 葵が叫ぶのと同時に、俺も気がついた。

 石の表面に何か彫ってある。これは文字、か?

 石に刻まれているのは、授業で習うような、古い書式の漢字にも見える。だが、俺にも葵にも当然読めない。とりあえず、携帯で写真を撮っておく。貴子に見せれば、調べてくれるはずだ。

 妙な確信を持って、画像を保存すると、葵がこちらを見ていた。


「ん?」

「お腹減ったから、ご飯にしよう!」

「お前、たまーに雰囲気クラッシャーだよな」


 つか、俺昼飯抜きとか言われてなかったか? 持ってくるな、と。

 その言葉を忘れたのか、葵はさっさと草むらを抜け出して、大きな弁当箱を取り出した。

 中に入っているのは、カツサンド。それも、ソースカツサンド。


「じゃーん! あたし特製サンドイッチ!」


 二日続けてかい。というか、昨日の夜美香に教えてもらったんじゃないのか?


「良介も食べていーよ!」


 ニコニコと差し出す葵に言われるまま、俺は手を伸ばす。恐らくは、俺のために作られたサンドイッチ。


「お前ってさ、タイミング悪いよな」

「んー? 何が?」


 さっさと座り込んで、もぐもぐと口を動かしながら尋ねる葵に俺は苦笑する。


「普通こういうのって、告白してきた後に出すか?」

「むぐ!」


 葵が塊のままサンドイッチを飲み込んで、変な声を上げた。ペットボトルのお茶を飲んでから、照れたように笑ってくる。


「あ、そういうことか! あたし駆け引きとか苦手だからさ! 美香と違って!」


 ある意味美香に失礼な言い方だな、それ。でもそうやって、真っ直ぐで不器用な方がお前らしいよ。

 ぱくり、と口に入れたソースカツサンドは、もちろん思い出の味とは違うけれど。

 冷めているのに、暖かい味がした。

お読みくださりありがとうございます。

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