二日目 神島へと 3
そんな俺の思いをよそに、島の外周をぐるり、と三分の二ほど回ったところで。
何の成果もないまま、ランチタイムとなった。
「じゃーん! 食べて食べて~」
道路脇の荒地にレジャーシートを広げ、美香が楽しそうに自ら作ってきた弁当を披露する。
メインはサンドイッチ。それにから揚げ、玉子焼き、ハンバーグ。どれも楊枝で刺せるように小さくしている当たりに、芸の細かさを感じる。
「いっただっきまーす!」
最初に飛びついたのは葵だ。両手にサンドイッチを持っている。
「むぐむぐ……ん~、相変わらず美香は料理上手だねえ」
葵の手が再びサンドイッチに伸びる。まずい。放っておくと全部食われる。
俺と同じ判断をしたのか、秀司も貴子も一斉に手を伸ばす。うお、また出遅れた。
遅ればせながら手近にあった一つをつかみ、口に入れる。
しっとりとした衣に、ソースベースのタレがよく染みた、カツサンド。
そういや付き合っていたときはたまに作ってくれていたな。
「おいしい?」
俺が夢中で食べていると、いつの間にか美香が俺の顔を覗き込んでいた。だから不意打ちはやめろっての。
しかし作ってくれたのは事実だ。俺は口をもぐもぐと動かしながら頷いた。
途端、美香の顔がぱあっ、と輝く。
「そ、よかった。良介カツサンド好きだもんね」
ごくり、と飲み込んで言い返す。そこは大事なところだ。主に俺的に。
「カツサンドじゃない。ソースカツサンドが好きなんだ」
「うんうん、わかってるって」
まだ俺が小さいころ、親父がタレを作って、あの女がカツを揚げて――美味かったし、楽しかったんだよ。
まあ来週からはどちらとも縁切りさせてもらうがな。
思い出さなくてもいいことを思い出して、それを振り払うようにサンドイッチに再び手を伸ばすと、意外なことに葵の手が止まっていることに気づいた。
「どうした? 体調悪いのか?」
俺が尋ねると、葵はびくぅっ、と大げさに驚いた。
「ん、んん? そんなことないよ! あたしは絶好調さ!」
「手が止まってるが」
俺が突っ込むと、何が気に入らなかったのか、葵が噴火した。
「あー! もうこの良介は! 普段は俺様マイウェイのクセに! こんなときだけ気配りする男になるんじゃない! だからお前は駄目なのだ!」
とてつもなく失礼なことを言われている気がするが、貴子と美香、それに秀司までもが何故か頷いていたので黙っておくことにした。
俺が反論しないので気が抜けたのか、葵はふう、と息を吐くと美香に言った。
「美香みたいに料理できるようになりたいなー、って思ったんだ! ねえ、教えて!」
突然の頼みにも美香はニッコリと頷く。
「うんうん、もちろんいいよ。いつにしよっか?」
「じゃあ、らいしゅ……」
そこで言葉は止まってしまった。昨日今日と、ちょっと不思議な体験をした以外は、五人で普段どおり過ごしていたからか。葵は、意識の隅に追いやってしまっていたのだろう。
――来週は、ない。
「貴子、お茶取ってくれ」
「自分で取りなさい」
無理矢理振った俺の話題転換に、ありがたくも貴子は乗ってくれた。いつもの調子で。
そこから秀司が流れを誘導する。
「いや、しかし美味いなあ。美香を嫁さんにする奴は幸せ者だな」
「でしょー? でもこんないい子を捨てたバカもいるけどねー」
美香が蔑んだ視線を俺に送る。俺は、うっさいボケ! とだけ返す。
雰囲気が、段々と戻ってくる。
「……そっか、来週はもうないんだった」
けれど、普段の声からは想像もつかない、弱く頼りないその声に。
葵の隣に座る貴子が、僅かに顔を伏せたのがわかった。
その貴子とは裏腹に、葵はぱっ、といつもの明るい笑顔を作り、美香に再び頼みだす。
「じゃあじゃあ、今晩! どうこれ!」
美香はあっけにとられたように、眼をぱちぱち、とさせたが明るく頷く。
「もちろん、いいよ」
全員の努力によって、再び和やかなランチタイムを取り戻した中、貴子が視線を一瞬だけ葵に送ったことに俺は気づいた。
だが、その意味はわからなかった。
昼食後、歩みを再会し、島を一周しても、何の発見もなかった。俺が持っている空真珠も、一度も光っていない。
船着場に戻ってきて、貴子が宣言する。
「だめね。今日はもうどうしようもないわ」
こと調べものに関しては、こいつが無理、と判断したなら反論する人間はいない。
その明晰な頭脳による調査能力は、疑いようもないからだ。
こうして俺たちは、船で神島を後にし、神津市へと戻った。調べ物をする、という貴子と臨時料理教室を開くことになった美香と葵がいたので、そのまま解散する。
だが、貴子は最後に言い放った。
「良介と葵。明日は汚れてもいい服で来なさい」
「ほい?」
「何でだ?」
当然疑問を返す俺たちに、調査隊長は無情に言う。
「明日からは手分けするから。体力バカのあんたたちには、天美山に登ってもらうわ」
「なんと!」
「おいこら」
微妙に眼を輝かせる体育会系は放置して、俺は突っ込んだ。
「山に登るだけで汚れてもいい格好ってことは、だ」
「察しがいいわね。道以外のところも調べなさい」
やっぱりか。
「おー! なんかサバイバルだね! 楽しみだー!」
どんどんとテンションの上がる明日の相方に対し、俺のテンションはストップ安を記録していた。
しかし貴子のとどめの一言に、テンション市場は閉鎖されてしまう。
「不満でも? 代案があれば言いなさい」
「いえ、ありません」
結局、俺は反論する術を持たず、粛々と受け入れるしかなかった。
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