プロローグ
こちらは恋愛ものです。
友情ものかもしれません。
今見ると超青臭いです。でも作者的には好きな作品です。
スマホのアラームが鳴るよりも早く、俺は目を覚ました。
朝は半自動で動いている、と誰かが言っていた気がするが、俺もそれに賛成だ。
特に意識しなくても、身体が勝手に準備をしてくれる。
ゆっくりとした動きでコーヒーをつくり、ベッドに腰かけて一口飲む。
そこでようやく、俺の意識は覚醒する。これも毎朝のことだ。
ベッドに座ったまま、部屋を見るともなしに見る。お世辞にも広いとは言えない、ワンルーム。
この春から、大学に通うために住み始めた部屋だが、どうにも違和感が拭えない。
理由は、はっきりしている。
――ここには、何もないからだ。
知らないうちに積み上がっていった情報誌の山もない。
目覚ましよりも早い時間の着信もない。
読むだけで疲れてくる、長い業務連絡みたいな通知も入っていない。
朝からけたたましく鳴らされる呼び鈴の音もない。
そうだ、ここには何もない。
ほんの少し前までは、俺はたくさんのものに囲まれていたのに――今は何も、ない。
離れてからようやくわかる、ありがたさ。
親の説教みたいに胸糞悪い、そんな文句が心に浮かぶ。俺はそれに反発すらできずに、一人で口元に苦いものを浮かべた。
携帯電話を片手でくるくると遊ばせながら、俺は柄にもないセンチメンタルな気分を振り払った。
鍵を閉めて、部屋を出る。一人大学への道を歩き出す。
途中で、桜並木を抜ける。もうほとんど散っている桜だが、それでもその下で花見をするべく、朝早くから場所取りをしている連中が眼に入る。
そういや、花見もしたっけか。
あいつらとの、思い出が蘇る。様々なものが俺の頭を巡っていく。
大学近くまで来たとき、俺が思い出していたのは、あいつらとの、最後の一週間。
誰も彼もが別れを惜しんでいたのに。俺たちの友情は永遠だ、なんて馬鹿なことを臆面もなく言える仲なのに。
誰一人、進路を誰かにあわせようなんてしなかった。我の強い五人組。
そんな俺たちの最後の一週間は、切なくて、やりきれなくて。
携帯電話の先で揺れる、青い石のストラップ。
俺たちは、最後の日にみんなでそれを作った。
俺たちの街でしかとれない、空色の真珠。
それが俺たちの最後の一週間を、切なくて、やりきれないだけじゃなく。
ちょっと不思議で。そしてとても大切なものにしてくれたから。
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