香る幸せ
いつも乗り換えで通る駅ナカに、花屋がある。今日も乗り換えのために歩きながら、ぼんやりとそちらを眺める。
いつもは、眺めながら通りすぎていくのだけど、今日は少し時間に余裕があったので、立ち止まって眺めてみた。
当然と言えば当然なのだが、自分には花のことなどなにもわからない。けれど、店先に並んだ様々な花やミニブーケなどに、目を惹かれた。
「なにかお探しですか?」
声をかけられ、どう返せばいいかと少し迷った。
「いえ……その、キレイだなと思って、眺めてただけです」
「そうですか。ぜひ、じっくり眺めていってください」
丁寧な言葉に、軽くお辞儀を返した。
家に花瓶なんてないような自分だが、コップかなにかで代用できるだろうか、なんて考える。せっかくだから、ミニブーケの一つくらいは買おうか、と思った。
オススメの品として目立つところに置かれていたミニブーケを一つ、手に取った。
「これを買います」
「ありがとうございます、プレゼント用でしょうか?」
「あ、いえ、えっと、自分用です」
「では、包装いたしますので少々お待ちください」
そうして、ミニブーケが手際よく包装されていった。
「お待たせいたしました、どうぞ、気をつけて持ち帰りください」
その言葉と共に、キレイに包装されたミニブーケを受け取った。花の香りがふんわりと漂う。優しく甘い香りが、胸いっぱいに広がって、心地よかった。
「もしよければ、またぜひ買いに寄ってください」
「はい。……いつも、お店の前を通りながら、キレイだな、って気になってたんです。今日はたまたま少し余裕があったので……」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「また余裕のある時に、寄りますね」
「ぜひ、お待ちしています」
深々と頭を下げながらそう言われた。こちらもお辞儀をして返して、ミニブーケを大切に抱えながら、お店から出た。
帰宅したら、花瓶の代わりになるようなものを探したり、お花の世話の仕方を調べたりしなくちゃいけない。少し大変な気もしたけれど、たまにはこんな気分転換もいいな、と思った。
ミニブーケを抱えた手からあふれてくる香りに癒やされる。こんな小さな幸せを、たくさん積み重ねていきたいな、なんて考えた。