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愛とは何ぞやっ!


与太郎には父親がいない。いや、厳密にいうと母親もいない。いわゆる"できちゃった婚"というやつで与太郎がふたつになる頃には父親は逃げ去っていた。さて、母親との二人暮らしが始まるのだが二年も続かない。シングルマザーというストレスから逃げるように母親はアルコールに溺れていった。酔っている時は付近の物を与太郎に投げるため、今も与太郎の額に傷がある。ひとしきり癇癪を起こした後、母親は決まって「ごめんねぇ、愛しているよ」と涙を流しながら抱きしめてくる。さて、与太郎がよっつの頃になる時に母親が死んだ。自殺だそうだ。遺書などの思いを伝える物は見当たらなかった。与太郎は母親の姉の妙子に引き取られることになる。妙子には子供がいない、七年ものあいだ恋人と同棲していたが授からなかったという。これが原因で喧嘩、ついには別れることに。このとき妙子は三十四歳であったため焦燥、世間の目を人一倍気にする妙子には耐え難かったのである。そんな中、妹の話が舞い込む。妙子には妹の死より与太郎に注目した。話はとんとん拍子に進み見事与太郎を手に入れた。妙子は与太郎の成績が悪いと決まって怒鳴りつけ、殴った。与太郎が良い大学に行くことが与太郎の幸せにつながるはず、彼女なりの愛であった。はれて与太郎は大学生になった。彼女が出来た。沙彩と言う。同じゼミで関わっていくうちに付き合うことに。目を見て話してくれる、怒鳴ってこない、傲慢で無かった、寄り添ってくれた。自分にはもったいないと感じるほど与太郎は沙彩をすいていた。付き合って半年、沙彩が突然いなくなった。沙彩を見なくなって最初の一日、二日は病気なのかと思った、しかし三日目にして異変に気づく、思い当たる限りの場所を走り回った。いなかった。後に教授から退学したという話を聞かされる、当然食い下がったがそれ以上は答えてくれなかった。それから数日後、落ち込む与太郎にゼミの女性が近づき与太郎への好意を告げた。思えば初めて気を許した異性から一番聞きたかった言葉「愛してる」沙彩はそれを一度も言わなかった、にも関わらずこの女性は簡単にそれを言ってみせた。与太郎は女に問うた「愛とはなんぞやっ!お前とは今日初めて口を聞いた!そんな間柄で消費される言葉なのか!」女性はもちろん周囲の学生も驚いていた。与太郎は正門から抜け出した、1秒でも早くあの場所から消えたかった、距離をとりたかった、離れたかった。与太郎は坂道を走りながら叫ぶ「誰でもいい、教えて下さい。愛とは…愛とはなんですか?」

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