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第四話 〜〜魔法の力を使って消失しようと思うんですけど〜〜

 



 この世界には、【エーレア】という魔法を発動させる為のエネルギーが存在している。

 エーレアは地中から湧き上がり、空気中に溶け込む。だいたい1立方平方メートルあたり70〜80%ほどエーレアが含まれている。

 生命体のエーレアの吸収は、一秒間に約8〜17e/s%で、この誤差は体格やその時の運動量によるものだ。最大でも25e/s%が限界だと言われている。

 空気中のエーレアは、消費された分を周囲から取り込んでエーレアの濃度を元に戻そうとする。その回復作用を【エイレンパルス】作用と呼ぶ。

 エアルストラスト現象とは、このエイレンパルス作用が増大し、何十倍にも膨れ上がった衝撃波のことを指すのである。

 では、どうしたらエアルストラスト現象が起こるほどのエイレンパルス作用を生み出せるのかと言うと、広大な範囲から忽然とエーレアが消失すれば引き起こすことができる。

 想像しやすい様に例えると、さいたまスーパーアリーナの空気が一瞬に消失し、空気が無くなったさいたまスーパーアリーナに空気が一気に押し寄せるーーーみたいな。

 気圧に似ていると言えばそうなのだが、エーレアは酸素や窒素、その他の物質と違ってあらゆる物質に透過・浸透・反応・変質することができてしまうのだ。

 故にエアルストラスト現象は周囲に多大なる被害が出てしまう訳でして……。


「で、空気中のエーレアを消失させるには単に魔法を使うだけではダメなのですよ、ええはい」


 俺は手元で作業しながら独りブツクサ言う。

 魔法発動時、空気中のエーレアの減少または消費量は50〜70e/s%で、空気中に80%含有しているエーレアを瞬間的に0%にすることは出来ないのである。更に空気中のエーレアの濃度が全体的に減少を始めた場合、エイレンパルス作用は引き起こらない。秒針が動くよりも早い速度で辺り一帯のエーレアを消失しなければならないのだ。

 こんな長々と御託を並べているが、正直、俺にとっては造作も無いことなので、ここからは色んなことを端折ってさっさと自殺しようと思う!


「師匠が俺に魔法のことを教える時、目がギラついてた気持ちが分かった気がする。うんちく理論を聞いてくれる奴がいないと寂し〜。前世でも今でも私生活ぼっちの俺です。はっはっはっ!」


 俺は無駄口を叩きながら手元で転がしていた物を口にした。


「味は……まあまあだな。食えなくはないからよしとしよう。さてさて、さっさと飲み込むぞ」


 角砂糖よりも少し大きくカットした果物を噛まずに飲み込んでいく。

 そんな物いつの間に用意したのかというと、すぐそこにあるリーリャ峠の山の中で自生していた果実を捥いできたのである。

 ねえ知ってる?あそこのリーリャ峠に昔、くっそ恐ろしく強い魔導師がいたんだぜ。森を駆ける蒼い雷なんて伝説が残るほどに。

 と、話が逸れた。


「さて、術式を付与した果物が消化される前にさっさと死ななきゃ」


 魔法術式をバラバラに付与した果実は俺の胃の中で一つになる。そして、果実はあの【雨雲を消失させた石ころ】のようにエアルストラスト現象を引き起こす。

 この最後の一つが魔法発動のスターターになる。

 本当は飲み込めるギリギリの大きさ一つだけを用意するつもりだったのだが、物質にはそれぞれ魔法的容量というものがあって、術式構築命令文を付与している途中で弾け飛んでしまったのである。


「喉につっかえる感覚が無ければ最高なんだけど」


 俺は、そうしてスターターとなる最期の一口を飲み込んだ。

 エアルストラスト現象の被害が周囲に及ばない様に障壁を張っているから俺が死んだ後も被害はないだろう。

 これで、心置きなく死ねる。







『ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』







 鳩尾の近くから感触の悪い反動がした瞬間、辺り一帯の光が歪んだ。

 景色が伸びていく。

 いや、縮んでいる、のか?

 体が、胃に吸い込まれる感覚が。まるでブラックホールが胃の中に生まれた様な、そんな感覚が俺を襲う。

 そして、俺の意識は…………。




































「………………、……………………ぇぇぇぇ…………」







 うそぉ……。

 直立不動ですけど……。






「……えと。いや……目も見えるし、耳も聞こえるし…………舌も廻っちゃってるね、ええはい。ぁぁ、こほんっ。……………おいっ!なんともないって、いやうそだ!うっそだろクソが!!どんだけ頑丈なんだよこの体!エーレアの物質変換も何もないじゃねぇかっ!!法則度返しとか、それこそやっちゃあかんやろいっ!!!いや、え、ほんと、バカだろ神!アホすぎんだろこの体ぁぁぅうぅぅぅぅぅぅぅ、ちょ、う、これ……あやば、と……トイレ、トイレ行きたくな、あっ!」




 …………。

 ………………。

 ……………………。

 俺はその日、人知れず川で下を洗い流した後、そこから一ヶ月近く家に引きこもるのだった。

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