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第十一・五話 〜〜勝手に壊すなんて酷いと思いませんかね?〜〜

 




 ーーーゴン。



「イテっ」


 と、レトノアの東に位置する城門の前で鈍い音とそれに伴う幼い声音の悲鳴が、人知れず夜の平原の静寂を破った。

 その音と声の主は一人の少女だった。特に強く打ち付けてしまった顔を小さな両手で覆い、反射的に蹲ると背負っていた荷物の重さに負け、ゴロンと尻もちをついて仰向けになってしまう。


「くぅぅ〜〜っ、なんじゃ、も〜!痛いではないかっ!いったい何だというんじゃ!誰がこんな事をっ!!……我に攻撃を仕掛けるとは良い度胸じゃな。この美貌が傷物になったらどうしてくれるっ!!」


 そう言って辺りをキョロキョロ見回すが、誰も返事を寄越さない。目の前には目指していた町の城壁と閉じられた大きな城門。そして、左右後方は自分が通って来た道と見渡す限りの平原のみ。少女の瞳には人影一つ映らなかった。 


「誰の仕業でもないと?」


 すると少女は、深く被っていたフードを外すと美しい長い金髪を露わにし、次いで着ている外套をバサッと大袈裟に翻した。


「はっ!笑わせるでない!我を謀ろうとはそうはゆかん。我はとっくに見抜いておるぞ。姿を見せるのなら今のうちじゃ。褒美に半殺し程度で済ませてやる。じゃから大人しく出てくるがいい!」





 シーーーーン………………。





「くっふっふっふっふ。ほほう。良い度胸じゃな。そこまでして姿を見せぬとは。貴様らは余程死にたいらしいな。良かろう。この我を敵として挑むその気概に敬意を表してやろう。どうだ?これ以上は互いに時間の無駄じゃと思うのじゃがな。くふふふ。……さあ、どこからでもかかってくるがいい!刹那の時間すら恋しくなるほどの間で、あの世に送ってやろうっ!」





 シーーーーーーーーーーン……………………………。





「おい。……おいっ。……………………おーーーーいっ!おいって言ってるじゃろがぁああーっ!!………………………あ、あああ、ぁ〜っ、あぁぁ、うそじゃ、そんな、……誰も……誰も本当におらぬのか!?誰か一人くらいはおるじゃろっ!?………………遠慮するでない!声の一つでも出せるじゃろ!……よすのじゃ、このたわけども、本当に誰もおらぬのか?我が大きな声で怒鳴ったのがいけなかったのかのう?そうなのか?それならば謝罪の一つでもしなくもないぞ!じゃから、ほれ、姿を見せるのじゃ。あいや、分かった!よく分からん攻撃を我に一撃食らわせたことも不問に処すっ!どうじゃ?これなら、もう出てきても良いじゃろ?」





 ……。

 ………………。

 ………………………………。





 誰も本当におらなんだぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!



「いやじゃああああ、こんな一人芝居を大声でしてしまったなんて、そんな事実あってたまるものかぁあああああああああ!!!なにゆえ誰も出て来ぬのじゃああああっ!これでは我がとんだ恥晒しではないか!うわ〜〜〜〜〜〜〜ぁあんっ」


 チラ?

 チラチラッ?

 チラチラチラッ?


「はぁぁぁぁぁ。こんな喚いても誰も出て来ぬとは本当に誰もいないということか。…………。ふんっ!し、芝居をしてやった甲斐がないのお。まったく。まったくじゃ」


 あー、やだやだ。これだからこの世界は解せぬ。いないならいないで、居ませんくらい言ったらどうなのじゃ。


「しかして。であれば我はいったい何にやられたというのじゃ?」


 言いながら少女は大きな荷物を拾い上げ、再び町の門へと歩き出した。

(こんな真夜中じゃと、宿を探すのも一苦労しそうじゃなあ。やはり奴の家に押し掛けーーー)



 ーーーゴンッ!



 少女は再び得体の知れない何かに衝突した。


「くふぅぅぅ〜〜〜っ!またしても……、もおっ!じゃから、痛いと言うてるに!なんなんじゃもおっ!」


 よろけながらも今度こそ尻もちをつかず耐え切ったが、もう涙目だった。


「ぬぅうう。どうしてもこの我をレトノアへ行かせぬつもりかっ!ん……??お?なんじゃ?壁?見えぬ壁じゃ!?こんなの分かるわけっ…………」


 遂に行手を阻む正体に気が付いた少女は途中で言葉を言い切らず、グッと堪えた。

 そして。


「あるっ!!分かる!知っとったわ!もう全てを見通しておったわっ!」


 誰も聞いていないその場で台詞を無理矢理、下方修正した。


「わ、我とて阿呆ではない!すぐに答えを言い当ててしまっては楽しみがないからのう!あれじゃ、全盛期の我ならすぐ答えを言ってしまっていたが、今の我は空気が読めるのじゃよ」


(かー!まったく障壁なんぞをこんなしょぼくれた町に張りおって!お陰で二度も鼻をいわせてしもうたわ。頭に来たわい)

 少女は片手を突き出すと、ようやく見破った障壁に触れた。ピリピリと痺れる感覚が手のひらから伝わってくる。


「この様子じゃとレトノアの四方と上空に張り巡らされておるな。ふーむ。なんともお粗末なものよな。第三魔法術式の用途では有りじゃが、術式の内容が汚い。ダメダメじゃ。無駄な配列に循環効率の悪いことこの上ない。そもそも我を阻害する時点でなっておらん!これを設置した馬鹿にはキツいお仕置きをせねばなるまいな。一先ずはーーー」


 少女がそこまで口にすると、障壁に手を触れたまま一歩片足を引き、軽く腰を低くした体勢になった。

 そして、次の瞬間。




 ーーーバチィッ!!



 と、少女が腰を僅かに捻り、障壁を押すような仕草をした途端、少女が障壁に触れる手を中心に紫電が四方へ駆け抜けていった。


「ふむ、綺麗さっぱりじゃ!案外脆いの。じゃが、久々に魔法を使うと力加減を誤ってしまうな。これしきのことで音を立ててしまうなんて、我としたことが」


 構えを解いた少女の言う通り、レトノアの町全体を囲うように張られていた障壁は既に跡形もなく消失してしまっていた。

(どうせ音を立てるならもっと大規模な魔法を使えば格好良かったのではないか?ぐぬぬぬ。次こそはそうしてやる)


「まあよい。これでようやくレトノアに入れるのだ!さあて、あの馬鹿弟子はまだ生きとるかのう?」


 そう言って少女は星灯りに晒していた長い金髪をフードの下に隠しながら、同時に悪戯を思い浮かべる様な笑みを覆っていった。

 そうして少女は軽い足取りのまま、閉ざされたレトノアの城門を叩いたのだった。



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