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第十一・四話 〜〜「これで役者は揃った」といっていいと思うんですけどもう死んでいいですか?〜〜

 




「生きてる!?マジでか!」

「「だから、勝手に殺すなって言うとろうがッ!」」


 わりと本気で驚いて振り向くとまた殴られた。

 これを理不尽と言わず何と言うのか。

 それにしても、さっきの光の砲撃をどうやって避けたのだろうか?

 光が照射された場所はかつてそこに川でも流れていたかのように地表が抉られていると言うのに。


「ワシらはコレがあったからのう」


 そう言って爺さんと婆さんが例の伝説級の農具と調理器具を見せてきた。


「いやいや、いくらそれが魔獣のアンチウェアを破壊できたってあの熱量の砲撃をどうやったら」

「んなことた、どうだって良いんだよ」


 ()かないやい!その不可思議な現象、結構大切な気がするんだけど。しかし、そこは爺さん婆さんだ。俺が口を開く前に喋り始める。


「それより、お前さんは?大丈夫なのかい?」

「んや、そりゃ婆さんたちと違って当たってないし」

「何言ってんだい、あんた」


 そう言って婆さんは俺の足元を指さしてきた。その先を追いかけると、いつの間に、と足を一歩引いた。どういうことか、俺の足元もしっかりと穿たれていた。徐に振り返れば、穿たれず残っていた地面がまるで自分の影が延びたように不自然に残っていた。んー、光に触れた感触も記憶も何もなかったんだけどな……。

(放射されたあの光はその周囲にも影響を与える、のか?余波的な?なにそれどこの機動戦士のビームライフルなん?)


「生きておって良かった」

「どうやったか知らんが。若えの。お前さん、実はかなり魔法が達者だったんだな。こいつぁ、恐れ入ったわ」


 魔法云々は使ってません。何かあるとすれば体質ですね!


「てっきり、もうだぁめかと思ったわよ。平気なら平気って当たる前に言いなさいよ〜、やだわぁもお〜」

「んな、無茶な……。第一、あれ光の速度で来てたし、俺じゃなかったら普通に死んでるよたぶん」


 照射時間は五秒にも満たなかっただろう。しかし、光の速度ーーーつまり視認した瞬間には既に絶命しててもおかしくない攻撃だったのである。それをどうやって「うん、平気〜。おっけおっけー」などと返事をする暇があるだろうか。それに、そんな事を可能とするならこの二人は視認する前から防御体勢を整えていたってことになるし、実際に生きているってことは偶然でも何でもそうした姿勢を取ることができていたってことだ。

 んー。

 なんだか突っ込みどころが多すぎて、受け答えが疲れる。唯一言えることと言えば、全員無事で何よりってことだろうか。

 ……え?

(ていうか……、今の光、俺の左足を消し飛ばしたヤツじゃない?)

 もしか、して、



「俺、死に損なったぁああ!!?」



 ああ、ああああああああ、ああああああアアアアアアァアァアアア!!

 今日二回目だぞ!!

 なにしてやがんだ俺はっ!!!

 あれだけ!あああれだけっ、死ぬことに貪欲だった俺がっ!

 目の前のチャンスをぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!


「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………これだから俺ってやつは」


 がくり、俺はへたれこんだ。

 なんなんだよ、もう。今日は本当に俺らしくない一日を送ってる。多分そのせいだ。ダンクトンだの、ゼランダ軍だの、戦争だのほっときゃ良かった。

 俺はいつも通り死ぬ方法を探して鍛練していれば良かったんだ。そしたら、俺は今頃、なんやかんやのチャンスを経て穿たれた地面と共に消え去れていたかもしれないのに。いや、そうでなくともいつもの志しを崩していなければ、俺は間違いなく光に飛び込んだに違いない。

 人の言うことに左右され、流された俺の自業自得か。なんと未熟なことよ。


「おーい、なんだいきなり。喧しい声出したかと思えば、急に泣き出しやがってからに」

「あんた、本当は怖かったんかい?婆さんが胸を貸そうかい?よしよし、おいで。怖かったね」

「あ、そう言うの結構なんで」


 めちゃくちゃ後悔していた俺は擦り寄る気配を感じてサッと立ち上がると、気持ち悪い顔をして抱きつこうとしていた婆さんを躱した。うん、ゴシンパイアリガトウゴザイマシタ。


「なんじゃ、若ぇの!婆さんの抱擁の何が要らんと言うんだ?え?」

「ハイ!その話は置いといて。爺さん、畑、無くなってない?俺の気のせい?」

「あっ!!なんてこったっ!やられた!!」


 絶対突っ掛かって来るだろうと予想していた爺さんが案の定、俺の胸ぐらを掴んでメンチを切ってきたので用意していたセリフを言った。爺さんの反応も予想通りだ。

 しかし、流石にこの惨状は同情する。何せ丹精込めて耕し育ててきた畑が斜めに裂かれるように穿たれ無くなってしまったのだから。


「家は無事だけどねえ。アタシたちから畑を取ったらもう」

「ワシらの畑……」

「…………二人とも」


 嘘偽りなく肩を落とす二人を見て俺は、掛ける言葉を失ってしまう。思いの外、デリケートな話題だっただけに胸に嫌な感触を覚えてしまった。

(どうにか、ならないな)

 少しでも元に戻せないか、と空気中のエーレアの残滓を追って時空間魔法の行使を試みたが、その残滓が広域に散らばりすぎて消失した土壌すら時間を遡って構築していくことが出来なかった。一つの個体を戻すのと大量の砂粒を戻すのとは訳が違う。

(レンガくらい大きければ簡単だったんだけど)

 とにかく二人にはどうにかして立ち上がってもらわないと。

 騒ぎを聞きつけて遠く離れた民家からちらほらと人も集まってきてることだし、第二波が来ないと言う可能性もないのでみんなで避難してもらいたい。

 こんな事してくるのは思い当たるところ、ゼランダ軍しかいない。別働隊でもいたのか。それとも昼間に閉じ込めた奴らなのかは分からないが、それがこちらを狙って攻撃してきたと考えて間違いないだろう。次を放たれる前に潰さないと、色々と厄介なことになりそうだ。特に、この二人の相手が……。

 そこで俺は短く息を吸うと二人の肩を叩いた。


「とにかく二人とも、今は他の村の人たちも連れて避難しよう」


 そう言うと、二人は肩に置いた俺の手にそっと自分たちの手を重ね、ゆっくりと握っていく。


「避難、か」

「そうだよ、爺さん。辛いのは分かるけど、でも今は逃げなきゃ。あれはきっとゼランダ軍だ。あんな物があったなんて知らなかったけど、逃げるに越したことはないよ。次にあれをいなせるとは限らないからさ」


 爺さんの手に力がこもる。


「あれがもう一度……」

「婆さんも、もうほら立って。頼むよ。戦争ってのはどんな悲痛なことが起きてもそれ一つに構ってられないんだよ。でないと、いつそれにまた巻き込まれるか分かったもんじゃないからさ」


 婆さんの手にも力がこもった。

 そして。


「「こんなことした輩はぜったい許さん!」」


 まるで万力に咀嚼されているのかと勘違いするほどの握力で、老夫婦が肩に置いた俺の手をゴリゴリと握りながら言うのだった。


「ちょちょおおおおお!やめろやめてぐあああ!痛くないけど手の骨がゴリゴリ嫌な感触を放ってるからっ!!離せぇえええっ!」


 クラスに一人はいる、「ねえ、手握って」とか「お前握力どれくらい」とか言って、無駄に人の手をゴリゴリゴリゴリしてくるヤツ。あれね、ほんと気持ち悪いからやめようね!


「ったく、どんな握力してんのさ!ほら、避難するよ!」


 解放された手の感触を気にしながら言うと、爺さんと婆さんは立ち上がり、俺の示した方向と違う方を向いた。


「行くぞ、婆さん」

「行きますか、爺さん」

「な!?」


 嫌な予感が的中し、爺さんと婆さんが腰を低くして駆け出そうとする。が、そうはさせない!


「行かせるか!!」


 そう言って二人よりも早く踏み込んだ俺は再び肩を掴んだ。すると、並外れた身体能力を持つ爺さんと婆さんの動きが途端に止まり、それ以上動こかなくなった。

 否、できないのである。


「なんじゃ、身体が!?」

「あんたっ!アタシたちに何したのさ!」

「魔法紛いの、簡単な拘束だよ」


 体表面に存在する【リーフ】は体内に取り込んだエーレアがニュートリノと反応してイデア・ソースと結合した物だ。つまり、自身の意思でコントロールできるようになったエネルギー粒子の膜みたいな物だ。膜と言っても、表現的には霧を纏っている感覚に近い。『気』とか『オーラ』とかのイメージが分かりやすいだろうか。この【リーフ】を纏っているからこそ魔法が使えるのである。

 その術者の意思に反応する粒子ーーー【リーフ】またの名を【リンク・エーレア】と言うがーーー俺は今、二人のリーフに俺自身のリーフで相手を覆って動きを止めているのだ。

 後ろ姿ながら二人が凄い形相で体に力を入れているのが伝わってくるが、いくら抵抗しようとも無駄である。なにせ、感覚的にはセメントに体を埋められてる感じに近い。

 なぜそれが分かるのかと言うと、俺が師匠に腐るほどやられていたからだ。

(もうね、ほんと、全身にどんなに力を入れようが、絶望的なほどに動けないんすよ。相手の意思を覆すほどの“自分”を持っていないと破ることができない、って師匠に言われたけどさ。そんな簡単な事じゃない非常に厄介な技なんですよね、これ)

 嫌な思い出たくさんの、決して魔法とは呼べない裏技だ。だから、俺は滅多に使わないんだけど、今は致し方無しというやつである。


「あそこには俺が行くから二人は村のみんなと避難して」

「そんなことできるかバカタレッ!」

「アタシらの畑の仇ィィィィィィイ!」


 相変わらず婆さんの顔怖ッ!人生でどんな経験したらそんな顔出来るのか聞いてみたいわ。

 そんなこんなで叫び喚く二人を俺は駆け付けてきた村の人たちに引き渡した。老夫婦を頼んだ相手に絶対に逃さない様に頼んでいると、二人と同じかそれ以上歳をとっていそうな別の村人が筋肉で服を弾き飛ばしながら了承してくれた。誰ですこの人?筋肉で会話する人なの?

 目を背けることにした。


「じゃあ俺行くから、ちゃんと避難するんだよ!あと、弁当置いてくよ。避難した先で食べて」

「ワシらも行かせろぉおお!」

「あの赤い光だけは絶対に許さんっ!」

「余裕があったら畑弁償するように言っとくから」

「自分の手で仇が取れぬのなら死んだほうがマシじゃ!」

「右に同じく!」


 爺さんと婆さんはそう言って唾を吐き捨てた。

 この老夫婦、元気なのはいいことだが、些か血の気が多すぎやしないだろうか。

 うん、面倒臭い。


「じゃあ元気で!二人ともご馳走様でした!」

「待たんか、若ぇの!」

「逃がすかあ!」

「完璧、標的が俺になってるじゃんっ!!」


 言いつつ、俺は半ば無理矢理その場から飛び去った。あの二人の相手をしていたらいつまで経っても行けやしない。また機会があれば会えるだろう。あの二人の例の武器も気になるし。

 俺は砂塵立ち込める丘陵の稜線へ方向を変える。砂塵の中で不気味に光を歪めている大きな物体を視界に捉え、俺はその元へ突っ込んで行くのだった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「これが出力最大だ。死んどけ、愚か者」


 マーゼルがそう言い放ち、砲を向けられたハボックが絶望を顔に出し、赤く光る光の弾頭が解き放たれる寸前、両者の間に何かが飛来した。

 それは轟音を鳴らして地面に降り立ち、同時に衝撃から地面を大きく揺らした。


「チッ、ミスった。足が地面に刺さった」


 風圧で砂塵が晴れた二人の間には知らない男が突き刺さっていた。本人としては地面を滑るようにして着地する予定だったのだが、スピードを出しすぎていたようで膝下まで両脚が埋まってしまっていた。

 しかし、殺し合いをするマーゼルとハボックが今更驚こうとも関係なかった。何せ、二人がその飛来した男を視認できた時には既にザナル・バフのトリガーは押されていたのだから。



 ーーーーーーーーーーッ!!!



 そうしてザナル・バフは割り込んできた男とその後ろのハボックに向けて放たれるのだった。


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