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第一話 〜〜羨ましいので代わってもらえませんか?〜〜

「いやあー!!助けてー!誰かっ、お願い、だれかああーー!!」

「ぐっへっへっへ。これだよこれ。やはり人間の鳴き声は素晴らしい。物言わぬ動物と違って、悲痛を言葉にするから尚のこと自分が如何に優位な存在であるかを実感できる。ほれ、こっちに来い。もっと鳴け」

「やめて!やめてやめて、きゃあーーーーー!いたい痛いイタい!離してっ、やだやめて!痛い痛い、あああ゛腕がやめて、痛い痛い痛いっお願いやめて離してっ!」

「最高だっ!さあもっと強く鳴き叫べ!もっとだもっと!そうしたら褒美に腕と脚を順番に引き千切ってやろう!」

「ぎゃああああああああやめてえええ神様ぁあ神様ああああ゛!!!!!」


 人間の若い女が一人、巨大な魔族に捕まり悲痛な叫びを天にも届かんばかりに響かせた。

 しかし、聞き止まり彼女を助けようとする者などそこに誰もいなかった。

 つい今し方まで昼の長閑な時間を過ごしていたこの街は、魔族による突然の襲撃に何の対処も出来ず蹂躙されるがままだった。通りに出ていた商店が軒から全て破壊され、火を放たれ、逃げ惑う人々は身を潜める場から無理矢理引き摺り出されては赤い花を咲かせていくばかり。

 彼女もその一人。

 魔族に理不尽に捉えられ意味もなく殺される、その他大勢の内の一人に過ぎない。

 彼女が生きた19年と言う時の経過も何の意味も持たず、この窮地には特に何の力にもなりはしなかった。


「ぐっへ。ぐふふふへへへ。ぐっへっへっへ。ああ、楽しみすぎて笑いが収まらない。きっと素晴らしいに違いないぞ!いくぞいくぞ?俺を楽しませてくれよ?」


 魔族が自分の片腕を引き抜く為に力を入れたのが伝わってきて、そこで彼女は神の名を叫ぶのを辞め、目を閉じ口を閉じ、ただ自分が終わる時を待つことにしたのだった。


「ーーーーーー。………………、ぇ」


 痛みが、いつまで経ってもやってこない。

 そう思い、恐る恐る目を開けると自分はいつの間にか魔族の手から離れていた。


「私、どうして?」


 彼女は先程、逃げ惑う際に足をつまずかせた地面にその時と同じ体制で倒れていたのだった。

 何が起こったの?

 更に砕けんばかりに掴まれていた腕も何もなかったかのように地面に手を着いている。

 呆気に取られながらも、彼女は後ろへと振り返った。自分を殺そうと先の魔族が立っていたその場所をーーー。




「ーーーもっとだもっと!!そう、そうそうそう!いい感じ!よし!よしっ!その調子!!!」




 振り返った彼女は、自分が居たはずのポジションに見知らぬ男が捕まっているのを見、その男が自らを拘束している魔族に対して何やら暑苦しい声で叫んでいるのを耳にし、そのどちらをも疑いながら固まってしまうのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 俺ーーーアーロック・ザードは力の限り走っていた。

 隣町のシェスロンに魔族が突然来襲してきたのだと、応援を呼ぶ為に早馬で駆けてきた衛兵が広場でそう言っていたのを聞き、一目散に町を出たのだった。


「急げ!急げ急げ急げ!!」


 今頃、シェスロンは大混乱に陥っているに違いない。

 ふた時も掛からない距離にある俺の町まであの早馬が到着したのを逆算すると、恐らくようやくシェスロンの守備隊が機能し始めた頃だろう。

 俺がシェスロンに着く頃には初動の遅れたシェスロン兵達が魔族にずたずたにされている頃かもしれない。もしくは、相手がそこまでの脅威ではなく、彼らは本来の実力を出し切っている頃かもしれない。

 どちらにせよ、急がなければならない。

 シェスロンに続々と増援が来る、その前に!


「っ!!!俺とした事がっ!またやっちまった。こういう時に魔法使わないでどうするんだ」


 俺は走る勢いそのままに、魔法という法則の存在を思い出し、走るよりも何十倍も早い飛行魔法を使ったのだった。

 流石は魔法と言わんばかりで、空の旅は十秒も掛からず終了し、シェスロンの中心街へと降り立つ。


「ちっ、空中で索敵するの忘れた。焦るといつもこうだな、俺は。こういう、いざって時の行動が曖昧なせいでいつも大事なところで失敗すんだよな。うし、落ち着いていこう。絶対に、焦らない。絶対に、冷静にいこう。絶対に……絶対に……絶対……」


 ぶつぶつ自分に言い聞かせながらボロボロになった街中を歩いて行くと。





「ーーーぎゃああああああああやめてえええ神様ぁあ神様ああああ゛!!!!!」





 周りから聞こえるどの喧騒よりも大きな叫び声がし、俺は即座に足を向けた。


「!!……あ、あれが魔、族」


 視界に入ってきたその存在を見て俺はすぐにそうだと確信した。

 シルエットは人に似ている。頭が一つに胴が繋がっていって、二本の腕があり、二本の脚がある。

 だが、似ているのはそこまでだ。腰よりやや下の位置からはトカゲかドラゴンのような鱗を持った太い尾が生え、頭の先からはどの動物の物とも思えない特有の雄々しい角が生えている。

 これが魔族ではなく、何だというのだろうか。モンスターであるのなら親近感湧く外見になった物だと褒めてやるところだ。


「……なんてデカさだ。脚も腕も、筋肉付きすぎだろ」


 世界を巡ったって、あんな岩みたいな図体をした人間はどこにもいやしない。

 だからこそ、その圧倒的な威圧感と強さが一目見るだけで分かってしまう。

 人の尺度に収まらない。

 それを超えた存在。

 だと。

 生殺与奪を一方的に振えるものというのは、きっとこういう奴らなのだろう。

 俺はそれを瞬時に理解して、ぞわりと鳥肌が体中を駆け巡るのを感じた。体が本能で危機感を感じているのだろう。


「……らや……し……ぎる……ろ……われ……か……れ」


 魔族は俺の事など全く気がついた様子はなく、捕まえた女を痛ぶるのが楽しいのか、人そっくりの顔をしながらも人外極まりない表情を作って悦に入っていた。

 むしろ、敢えてそうしているのかもしれない。

 街中を逃げ惑う人もまだ何人かいて、魔族の姿を見るや捕らえられた女の事も気に掛けず一目散に逃げていく。

 目の前の魔族はどうやら相当、その女が気に入っているらしい。


「か……れかわ……かわ…………われ」


 その女も自分の最期に納得でもしたのか、ぐっと耐えるように押し黙る。

 それを見て魔族は楽しみがまた一つ増えたとでも言わんばかりに口先を吊り上げ、その時が訪れーーー。




「代われっ、つってんだろっ!!!羨ましすぎんだろうが!!!!!」




 俺は我慢出来ずに【時空間魔法】を使って女が捕えられる瞬間を、自分と入れ替え拘束されに行ったのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「最高の力加減だ!いける!これならいけるぞっ!!ほら、もっとだもっと!!そう、そうそうそう!いい感じ!よし!よしっ!その調子!!!」



 そうして今、四肢をもがれ殺されるところだった女と入れ替わった俺は魔族を全力で応援していた。


「いけるっ!お前ならできる!諦めんな!!限界を超えるんだよ!絶対できるから!お前は魔族だ!俺は人間だ!貧弱な人間なんか一瞬で殺せるって!!力は十分だ!筋肉が喜んでる!お前自身が一番分かってるだろ!?できるって!よし、そうそうそうそうそうそう!!!引っ張れ!俺の腕を早くもぎ取れえええええええ!!!!!!!」


 顔を真っ赤にしながら名も知らない魔族は、全力で俺の右腕を根元から鷲掴みにして引き千切ろうと力でいる。

 しかし。


「な…………なぜ、だ、ハアハァハァ……」


 俺の応援の甲斐は無く、魔族は息を切らして俺の腕から手を離してしまった。


「知らぬ間に入れ替わって……ハァハァ……やかましい事を口走るから……瞬殺してやろうと…………したのに……ハァ……ハァ……、貴様いったい何をした!」



 あれ程、女を痛ぶるのに楽しんでいた顔は今はなく、楽しみを邪魔された怒りと理解が追いつかない現状に苛立ち、魔族は声を荒げた。

 すると、この状況に混乱するもう一人も同じだったようで動揺が収まらない声が後ろから聞こえてきた。


「あ、あなたはいったい?私を助ける為に?」


 首だけ振り返ると目が合い、そんな事を言われた。

 は?


「何言ってんだあんた。羨ましい以外のどこに理由があるんだよ」

「……ぇ、あの今なんて?羨ましい?」


 ぽかんとした顔向けるなよ。

 アホな奴は放っとこ。

 では、改めて。


「悪い、魔族さん。邪魔が入っちまった。だが、気にしないで続けてくれ。魔族さんの本気、待ってます!この通り、俺はいつでも準備OKですっ!」


 向き直った先の魔族にそう言うと俺は全力で脱力し、その時を待った。

 受け入れ体制は万全だ。

 さあ、次こそ魔族の本気を俺に喰らわせてくれ!


「貴様、下等な人間の分際で何を言ってる!!そんなに俺様の怒りを買いたいのなら、望み通り今すぐ消し炭にしてやる!!」


 すると魔族は俺の胴から手を離すと、0.1秒にも満たない浮遊した俺の腹目掛けてアッパーカットを決めるように尻尾を叩きつけた。


「お、趣向を変えて空中での大技炸裂と来たか。期待大だな」


 飛行魔法には及ばないが、なかなかの速度で空に打ち上げられた。

 打ち上げ地点を見ると自由落下する俺目掛けて魔法を放とうとしている魔族の姿を見つけた。

 黄色。

 橙。

 赤。

 段々と収束していく光の塊は色を変え、次の瞬間、どこかの宇宙戦艦が放つ様なレーザーが俺目掛けて放たれた。




「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!」




 赤い光が俺の身体に余す事なく被弾し、地上から天へと赤い柱が伸びるように魔族の魔法は力の限り放たれ、やがてそれは収まった。


「な……んて残酷な」


その様子を見ていた女が口を手で覆いながら声を漏らした。すると、魔族は吹き出した。


「ぐっへ。ぐっへ。ぐえええへっへっへっへっへ!ぐえっへっへっへっへっ!グェヘッヘッへ!残酷ものか。俺様を怒らせた当然の罰だ。おかしな小細工で俺様の筋力を無効にしやがって。だが、少し本気を出したあの魔法なら間違いなく死んだだろう。奴はもう、塵一つ残ってはいないさ」


 魔族は機嫌を直したのか、足を引き摺って逃げようとする女の後をゆっくりと追いかけていく。


「安心しろ。お前はたっぷりと痛ぶってから殺してやる。俺を存分に楽しませてくれ!グェヘッヘッへ!」


 そうして、魔族が女を捕らえようとした次の瞬間。




 ーーーダンッ!!!




 凄まじ炸裂音と共に、女と魔族の僅かな距離の空間が突然爆ぜた。


「うがあああああああ腕がぁ、俺の腕が!!!誰だ!!何処にいーーー」



 ーーーダンダンダンッ!!!!



「ーーーる………………」


 連続した三度の炸裂音が鳴り止むと、魔族は四肢を失っていた。そして、その巨体を地に打ち付け、仰向けに転がった。

 魔族は自分の身に何が起こったのかまるで分からなかった。

 ちなみに、そのほんの瞬きの間の光景を見ていた女は白目を剥いて気を失っていた。


「俺様が、こんな」

「何がこんなだ。ふざけんなよ筋肉ダルマ」

「!!」


 そんな様子を知ってか知らずか、シェスロンの上空から失望100%に満ちた声と共に一人の男が落ちてきた。

 俺である。


「おい、筋肉ダル魔族。テメェ、手ェ抜きやがったな?全力でやんなかったろ、おいどうなんだこの野郎?あ?」


 俺は降り立つや否や魔族の襟首掴んで頭突きするように文句を言い放った。

 どういう事だ?みたいな、きょとん顔してんじゃねえよ!

 ったく、失望も何もあったもんじゃない。

 不平不満が募りまくって気分最悪だ。


「俺言ったよな、お前の全力待ってますって!なあ!?何だよあれ!お前はあの魔法が全力ですって言うのか、は?舐めんてんのかおい!見た目だけのザルだったんですげと!?中身スカスカの魔法だったんですけど!?腕力もねえし、魔法もクソって、お前本当は魔族じゃねえだろ?なあおい、聞いてんのか?本当のこと言えコラおいダル魔族!」

「あ、ありえない」

「お前の弱さがありえないんだよっ!!」


 こいつーー!!人の話聞いてねえな!?


「分かった。一気に怒鳴りつけて悪かった!お前の言い分を聞いてやるから、早く言え」

「き、貴様はいったい…………。俺様の魔法を弱いだなどと」

「時間を無駄にすんなよ?テメェが弱いからそう言ってんだって。お前が強かったら俺はちゃんと!さっき!あの場で!確実に死んでたんだよ!ヤル気あんのか!?」


 もう本当に勘弁してくれないだろうか。

 周囲に気を張り巡らせてみて分かったが、シェスロンを襲ってきた大群の中で一番強そうな個体はこいつだけだったみたいだ。しかし、全身で味わってみたものの、実際は期待していたよりも遥かに弱かった。

 話に聞いていた『魔族』というのは、この世に存在するどんな生き物よりも高位の種族であり、力は何よりも強大で、人間なんか絶対に太刀打ち出来ないと言われているほど恐ろしく最強な種族らしい……のだ、が。

 感極まって飛び出した俺の馬鹿!

 こんな事なら期待せずに来ればよかった。もっと言うなら、様子を観察してから首を突っ込めばよかった!

 そうしたらこんな胸糞悪いストレス抱えずに済んだのに。

 あー、もういいや、帰ろ。帰って不貞寝しよ。


「おい、何処へいく」

「なに?なんか文句あんの?もしかしてクレーマーか何かなの?クレーマー族かお前は」

「トドメを刺さないのか」

「帰る」

「おい、貴様!この屈辱は絶対に忘れん!俺様は必ずお前を殺す!絶対にだ!」


 その言葉を聞いて俺はようやく足を止め、振り返った。


「マジか。それ、本当だろうな?」

「俺様が貴様を殺したいのだ。嘘偽りを言うわけないだろう」

「おおおお!」

「俺様はジラン・カイザー・シェルゼロン。このランフラーブス大陸を支配する高位魔族だ。貴様の名を聞いてやろう」

「死にかけ風情が改まっちゃって上から目線がよく出来るな。だけど、お前の話に興味が湧いたから教えてやるよ」


 俺も負けず上から目線で名乗ることにした。


「俺はアーロック・ザード。またの名を『死にたがりのデ・ナウズ・ロック(不死身野郎)』ーーー。隣町のレトノアに住む流浪人だ。お前が俺を殺すってんならいつでも来やがれ。マジで心から楽しみにしてるからよ。自慢じゃねえけど俺は死ぬことに関しちゃ、一家言あると言っても過言じゃねえ。なんたって」




「死ぬことに命を賭けってからな!!!」




「………………」

「いや、なんかそこは返せよ。やっぱりあれか?この世界、お笑いの文化がないから突っ込み知らないのか?」


 なんだか最後の最後で決まらなかった感はあったが、俺は来た時よりもワクワクしながら家路を辿った。

 魔族であると言うジランはというと、時間が経てば自己再生出来ると言い、血をぼたぼた垂らしながら俺とは真逆の方向に飛んでいった。

 ジランはこの大陸を支配する魔族らしく、その中でも高位だと名乗った時に言っていた。それはつまり階級があって、そのトップに位置する魔王的な存在がいるという解釈で間違い無いだろう。

 最悪の最悪、ジランが俺を殺せなくっても魔王的存在の統括者に取り次いでもらえるよう話をしておこう。でないと、今度は絶望のあまり勢い余って本気でやり返してしまうかもしれないからだ。

 そうなった時のためにも、早めにコネクションを構築しなければなるまい。


「あ、しまった。ジランの家、聞いておけばよかった。俺を殺しに来るのいつだ?ぁぁ、ストレスで胃が……早く、早く俺を殺しに来てくれ」

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