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備品科の魔女   作者: 式式
海猫の非
5/19

彩色主義者

 空は青空が広がっている。

 山の方にかかる雲を見つけ、そんな天気は続かない事を理解する。


 明日は雨が降るだろう。

 だが。どのような天候であれ、この関係は変わらない。

 雨が降ろうが、晴天だろうが。

 この、いつも通りの距離かんけいは保たれたままだった。


「何故、俺を頼ろうと?」


 紫陽花は花を咲かせない。

 だが、明日は?明後日は?その限りでない事は、今までの経験から分かる事だ。花がいつ咲くのかなどと、それは花の気分次第。

 他人の事情を深く知らない誰かに、他人を知る権利はない。

 それは、横を歩く彼女にも適用されるのだろうか?

 信頼という言葉がこれほど重いとは思わなかった。


 ……俺は、名護鴎なごかもめに信用をされていることを知らなかった。

 正確には、信用されている価値があるとは思っていなかったのだから。


相木あいきくんなら付き合ってくれると思いました。不思議な人ですから」

「自分は普通だと自覚しておりますが?」

「意地っ張りで。それでも、何も言わずに、私の事に対して尽力してくれる人。相木君。私は、彩色主義者。……です」


 彼女は此方に目を向けた。

 

 初めて、その水晶体を見た気がする。

 黒く、黒く。何かを飲み込むような黒い目が。

 だけど、其処に悪意はなく。深淵という訳でもない。


 それは、唯。欲しているように俺を見る。


 彩色主義者。

 魔法関係の話題で聞いた事は無い。……だが、この町の噂話に、そういった類のモノがある事を思い出した。その名の通り色を食し、無色透明を忌み嫌う。彼等は色に生き、彼等が取り込んだ色彩は、彼女達の血液となって巡廻する。

 そんなうわさ話の存在が、横の彼女だと。


 馬鹿馬鹿しい話だ。

 そんな事がある訳ない。


 だが、馬鹿馬鹿しいモノがある事を自分は知っているだろ?


相木あいきくん。私は、君が魔法使いだって分かっていました」

「……何時頃から?」

「最初からです。私は、相木くんが他とは違う事を知っていました」


 彩色主義者と語る彼女は、そう言って距離を詰める。

 いつも通りのその距離は、深く深く詰められる。

 それは断罪を求めている様にしか思えない。そんな事を語る彼女が、”あの日”を覚えていない筈がない。

 体のいい言い訳などを重ねず、突き詰めてほしかった。

 ……いや、体のいいのは俺の方か。


「俺に頼んだのは、それが理由ですか?」

「君と同じ”秘密”だったというのもあります。でも、君といるのは楽しいです。それは昔から変わりません。……これ以上この秘密を抱えるのは嫌でした。私が化け物だという事を、貴方だけには知って欲しかったんです」


 君に伝えられたのは良かった。と彼女は笑顔を向けた。

 その感情を、疑いたくはない。


「……相木くん。幻滅しましたか?」

「いえ。逆ならありそうですが」

「私が、嫌う理由なんてありませんよ」

「……」


「曖昧で、純粋で、無垢で。そんな色を見せている貴方は、決して悪い人ではない。そして、私はあなたとの日常に魅かれていたのです」


 彼女は手を揚げる。

 青空に延ばされた手は、その青に届く事は無い。彼女が彩色主義者だとして、その何処までも広がる蒼をすべて取り除く事は出来ないだろう。それでも彼女はその青に手を伸ばし、海の色だと語りながら、こちらに目を向けた。


「それはとても甘く、ほんのり苦くて。……私が、好きな味なのです」


 淡く深い皆底を思い出す。

 それでも上げていた手が、青空に向けられていた。

 沢山の絶望を胸いっぱいに詰め込んだ。あの惨状と重なってしまう。





 そして彼女は、ぽつりと呟く。



「それだけが、私の”救い”なのです」




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