表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
備品科の魔女   作者: 式式
海猫の非
4/19

魔女の興味

「そうです。お話の通り、私どもの神社では黒猫を祀っております。……そして、それは」

「生きかみ。なのだろう?」

「はい」

「生き神。ですか?」

「生き上だ」

「猫の?」

「猫の」


 随分と珍しい。

 いや、動物を駅長やら何らやに就任させるのは、もはや非常識ではないが。空想としての役割を、人ではなく生きた動物に課せるのはどうなのだろうか?特段、神事に詳しい訳ではないが。


「どうなのですか?其れ」

「どう。……と言われてもな。常識の反中としか言いようがないぞ?大体、人を神様の依代とする事はお前も知っているだろう?それは猫であろうが熊であろうが猪であろうが変わりない。姿形に関係があるとすれば、そいつの名称だ」


 名称。

 それは、この場での意味合いでは名前と異なる。名前とは、人が持つ固有の意味。名前の意味は、その人間の在り方、過去、現在、未来。構成するすべてを含む力の名。そして名称は、物の名。意味という力を含まない断片。

 縛られるものと、縛られないモノ。

 力がある為に縛られるものと、無いために縛られないモノ。

 そして、縛られないモノは別途の力を持つ可能性がある。


「人間だけが神を持たない。だからこそ、人は特別ではない。忘れたか?」

「……そういう訳では」

「人間は神様になれないよ。人間だけが神様になれない。何故なら、人間だけが名前を持つのだから。名前を持った其れは、それ以外の何物にも生れない。我々が特別であると仮定するなら、たったそれだけが特別だ」


 特別であるのは人間ではない。

 特別になる事は出来ない。

 何故なら、名称を持つそれらが、真に特別なのだから。


「そうですね。確かに、私達だけが名前を持ちます」

「名称は名前になれないのさ。神様も同様にね」


 我が弟子とは違い、君は勤勉だと師匠は口角を上げる。

 弟子を虐めるのはこれくらいにして。

 長い前置きを、彼女はそう締めた。


「だが、話は見えないな。君の神様の在り方に不便があるとは思えない。私は、アレを知っているよ。その上で断言するが、あの機能に綻びは無い。一般的な神様としては満点を与えたいくらいに。アレは有害になり得ない」

「……そうです。猫には。……あやしげには、何の落ち度もありません」

「さりとて、君自身が勉学不足とでも思えないがね。……何があったい?」


少しばかりの間をおいて。鴎さんは現状を語る。

少しばかりの震えと、どうにか吐き出した言葉を含めながら。


「あやしげが、倒れたんです」

「……ほう」

「毎日エサはちゃんとやっていました。健康にだって気を付けています。……それに、祭事はいつも通り行い、毎日の祈祷も欠かしていません。……其れなのに。あやしげは元気になってくれないんです」

「生き神が」

「……息も絶え絶えで、どうすればいいか分からなくて。お父さんは、社の事を知らないから。……私だけでどうにかしなくちゃいけなくて」

「なるほど。……生き神が弱っていると」


 師匠はその言葉を聞くと、深く考えるように手を口に当てた。

 

「信仰が途切れた。……という訳でもないですね」

「少なくとも、一日に数人は、熱心な方がお参りに来てくれます。信仰が関係しているとは思えません」

「体に異常も、勿論?」

「……ありません。確かに、今はご飯ものどを通らなかった。……でも、その前は」


 その情景を思い出したのだろう。

 たどたどしく語っていた彼女は言葉を区切り、少しばかり目を伏せた。その表情で、あやしげという猫がどれほど大切な存在なのか理解できる。神様としてではなく、個人として。彼女はあやし気を大切に思っている。

 それをくみ取るのなら。

 この場で、余計な慰めの言葉を吐く事は出来ないだろう。


「……成程。……いや」

「師匠?」

「……そうだな」


 我が弟子。

 彼女はそう語る。


「この件はお前に任せよう」

「師匠?」

「たまには、自分一人でやってみなさい」

「……それは責任放棄では?」

「少なくとも、彼女は否定しないだろう。それに、出来ない事を押し付けるのが責任放棄の意味さ。そんなものを任せた事なんてないだろ?」


 それに。

 彼女は、君に頼っているのだろう?


 そんな訳はあるまいに、師匠は言葉を紡ぐ。


 鴎さんは、こちらを見ていた。


「……まあ、努力しますよ」

「努力はしろ。だが、赤点はなしだ」

「……ありがとうございます、相木あいきくん」





 宜しく。

 彼女は、花のような表情を見せた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ