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備品科の魔女   作者: 式式
海猫の非
2/19

黒猫の紅道

 四丁目に通ずるその通りは、人影が疎な地域住民が主に行き交う裏通りだった。

 その昔。上の方にある町と橋渡しを通じて貿易を繰り返していたこの町には、血脈の様に張り巡らされた路地が多数点在する。一貫性の無いそれらは迷路の様に観光客を悩ませ、地域住人である我々に対しても他人事にさせない。

 一歩、家の外に出れば。知らない街のような様相を見せる。


「では、後はよろしくお願いします。師匠。出来れば、穏便に」

「その穏便とやらは、お前の利益に準じろという話だろ?大概迷惑な話をしているのを自覚していないのか?千世上ちとせじょう

「私は私を裏切れないので。ご存じの通り」

「面倒事も対外にしろ。後、私はお前の師匠ではないと何度も……。おや?」


 その店は、大正の世から続いているらしい。

 モダンなかっふぇや木造建築が並び立つ通りは、その特色を全体に共有するかのように通り事態へ年期と時代を投影する。

 店先には少し早い紫陽花。花は咲いていないが、紫が引き立つような満開を見せてくれるのは想像に難くない。

 そんな紫陽花を前に、対になるかのような男女は口論に耽っていた。道行く人々の注目を総取りにする美男美女。京風の着物に着飾る彼女は、小さき背丈の為に、上方を睨みつけるかのように目線を示す。


 店主、宮式みやのしき


 宮の雑貨店と呼ばれるこの店は、雑貨店といった看板が立てられている様に日用雑貨と特に価値の無さそうな古い骨董品も品と出す。そして、無論それに止まらず、彼女が口にした噂の元凶たる商売も行っているのだが、今は割愛としよう。


「ちょうどいい所に来た。走、この男を摘み出してくれ」

「やあ、走君。いつもご苦労様だね。飴を上げよう」


 対して

 親戚の叔父様という雰囲気と風貌を崩さないその男は、一言で言うと俺の兄弟子に当たる。

 懐から取り出した包み紙をこちらに差し出し。隣りの彼女に気が付くと、同じく包み紙を渡すのだが、俺は嘆息を吐いて呆れた表情を見せる。


「……俺は、いい大人だろ?千歳にぃ」

「子供なのだから飴を上げるのさ」


 男の名前は、千歳上。

 

 宮島店に居候をする二十代後半の優男。

 常に飴を懐に隠し、それを自身よりも幼い者に振舞う事を生業としている、不可思議な人物。

 先に兄弟子を語ったのは、彼が決して無関係ではなく、多分この物語の上で重要な人物である事は、この時の俺の目線からも察せる事であったからだ。

 不可思議な話。

 彼女曰く、猫を主役として語られるこの話は、一般的な常識に囚われてはならない。


 千歳上。

 そして、宮式。


 何を隠そう。少しも隠そうとしないこの二人は。

 いわゆる、”魔法使い”である。


「……その子は?」

「客人です、裏の方の。品物には興味が無いけど、何かしら困ったことがあるみたいで」


 少しばかりあっけにとられていたのだろう。その様子をぼんやりと、他人事として見ていた少女は、慌てた様子で自己紹介に入る。


名護鴎なごかもめです。よろしくお願いします。……えっと。店主の方は千歳上ちとせじょう?さん。……でしょうか?」

「この優男がそう見えるか?」

「どうも。この店で居候としております。ご存じの通り、私の名前は千歳上ちとせじょうです。そしてこちらが」

「店主は私だ。馬鹿者」


 呆れた表情はこちらに向けられた。

 こちらの責任が、果たして先程の会話に含まれていただろうか?否、それは決して否だ。推測と見当外れは名護さんの責任で、更に重ねるとしたのなら、店主のように見えない師匠の容姿に問題がある。背丈と童顔に罪は無いが、それを事前説明する事は義務ではない。


「……走、お前は何も教えていないというのか?」

「別に何時もの事では?師匠が幼く見えて、千歳にぃが大人びているのは」


 我が師匠、宮式は背丈と顔立ちの話に弱い。

 その話を繰り出すと、高校生と間違われる程、童顔である彼女は顔を膨らませて実力行使の拳を作る。それは全く痛くも痒くもなく、ポンポンと睨み付けられ叩かれる事となるのだが。其れこそ何時もの事であり、俺は短い謝罪に努めるばかりだ。


「名護……ねぇ」

「おい。千歳」

「何でも無いですよ。師匠」


ジョーク交じりにニヤニヤとする千歳にぃ


「立ち話も何だ。中に行こうか?師匠。棚にいい茶葉があったはずだ。それを持ってきてください」

「……お前、アレは私のだと何度も」

「まあまあ。いいじゃないですか」

「……まあ、いい。そこの君、詳しい話は中で話そうか?」


 そして彼女は、その表情を変える。


 知識を糧とし。

 英知に溺れ。

 書跡に通ず。


 それは、鈍重な好奇心の塊。


「君が話す話は、そういう類の話なのだろう?」


 魔法に通じ、異形の物を集める。

 彼女は、ガラクタの中からそれらを見極め、曰く付きだけを収集し貯蔵する。


「……はい」

「入り給え。もちろん、報酬の話もしよう」








 魔女は、おとぎ話の世界だけではない。

 それは、確かに居るのである。


 


 

 様々な紛い物の備品を貯蔵し、管理し、曰く付きを牛耳る彼女。

 魔術関係のまがい物の第一人者。通称、備品科の魔女。


 これは、そんな魔女と猫が関わる。

 少しばかり、異質な話である。







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