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備品科の魔女   作者: 式式
代償を食む
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色彩を食む人々

「生きる度に心臓は動く。

 鉄の匂いを否定しようと、留め無く人は生きる。

 否定し、呪い、耳を塞いでも生きる音からは逃げられない。

 死には自由意志があり、生き続ける事に貴様の意思はない。


 知っているか?


 耳を塞ぎ、それでも聞こえるその音は貴様が生きている証だ。

 私も、同様にその音が流れている。

 意味も無く、貴様と同じように心臓は同じだ。


 血を食む私と、彩を食むお前達に違いはあるのか?」


 目の前の吸血鬼は、そう言って笑う。


「__我々は似た者同士なのに、何が違うんだろうな?」









 ____夜。


 







 ちかちかと蛍光灯が点滅する旧街道を進み、その場所へと向かう。

 雨音の代わりに木々のざわめきが鬱陶しくて、それを振り切るように進んだ先にその建物はあった。

 七日旧小学校。 

 元は音楽室であったこの部屋は、数年の時が流れたというのに物品をそのまま残されている。木造建築の古めかしい雰囲気と、独特の雰囲気を持つその場所は、年中その扉を閉める事は無い。

 身の丈に合った立派な椅子に座りながら、多少の眠気に身を委ねていた彼女は俺を見据える。

 此処が誰しもが恐れる怪談スポット、面白がるように群がる不法侵入者に制裁を与えるのが家主としての務めだとでも言うように、その顔は不機嫌に歪んでいた。


 深夜。誰も居ない音楽室。


 歴代の著名人の額縁と一つのピアノが印象的な部屋で、彼女は語る。


「其処に違いなんてない。人を殺せば誰しもが殺人者だ。刺殺、溺殺、銃殺。ありとあらゆる殺し方をしていたとして殺人に変わりはないだろう?

 私達だってそうだ。我々の食という行為に違いはない。それを否定するのは、無責任だろ?」


 吸血鬼は笑っている。

 貪り、赤みを食し。日を苦手としながら。

 人の天敵であり続け、人では無い化け物の代表は語る。

 数百年の寿命を持ち、今尚生き続けながら人の血を飲まない彼女。彼女の名前は、クルス・ノーディア。現存する吸血鬼の中でかなりの重鎮だと聞いている。師匠の話では、この街の発展に大きくかかわった人物であるが、正直、トマト中毒者という印象が大半だ。


「名護の家から、複数の鉱石が持ち出されているのが発見されました。何か知りませんか?」

「それを聞いてどうする。……魔術師に伝えろ。私は知らないし興味もない。私にだって予定はある。お前のように暇じゃないと」

「俺の師匠は暇じゃないです。大暇です。今でポテチを貪るくらいには暇で暇でしょうがないです」

「___まあ、噂位は知っているがな」

「___それは、紅石の食用転換についてですか?」


 彼女が驚いたような顔をする。


「……耳が早いな」

「吸血鬼同士の中で、鉱石を食用として転売している動きがあるのは此方でも掴んでいます。……まあ、それでも、それが可能かどうかは分かりかねるんですが、ね」

「可能だ。現に私は、血を飲んでいなくても生きているだろう?私が血を飲まないのと、彼等が血を飲むのは習慣の違いに過ぎないが」

「習慣の違いであるから、否定はせず干渉もしない?」

「連中が血を食むとしても、私は干渉をしていない」


 吸血鬼は口元を汚しながら答える。

 それはどう見てもトマトであり、彼女が言う通り鉱石が関係しているとは思えない……。

 いや、可能性があるとするなら、それを育てる__。


「紅石は、肥料として使われていた?」


 そして、それで育てられた供物こそが食料となる。

 とすれば、本来血を食む彼らが他の物を口にして生きている理由に合点は行く。


「直接食す訳ないだろ?」

「……あの量の紅石は何処へ?」

「カラスでも運んだのではないか?」

「___鴉?」

「連中は光るものが好きだからな」

「烏」


 紅石は美しい宝石という訳ではない。

 __何かが引っかかる。

 だが、それ以上が出ない。

 

 名護の家から鉱石が盗まれた事が分かったのは、つい先日。猫の呪縛について調べるついでに、あの道を調べていた所。何者かが侵入した痕跡を見つけた。

 迷い誘う道としての効力を失った紅石の道は、その性質によって人を呼ぶ事は無い。その意味を失ったただの道には観光産業としての力も無い。日常的に紅石の道利用するもの好き。__という可能性は否定できない。……が、そんなもの好きがいる可能性を天秤にかけるよりも、決定的な事が一つだけある。

 踏み荒らされている筈の道の一部が、少しばかり沈んでいた。

 まるで、誰かがその場所から持ち去ったかのように。


 師匠に事情を説明し、この場所に来たのは偶然ではない。

 それが何者であるかを確かめる為に、伝手をたどって今に至る。


「我々には二種類いる。元々そうであった者。後天的にそうなった者。前者の場合、大抵は均衡を望む。前衛的な我々は殆どいない。例外は無論いるが

 だが、後者は違う。与えられ、選択がそれしかなくて。それでも化け物にならざる負えなかったものは、そうならざる負えない。そしてそれは対外、我々以外の第三者が持ってくる希望だ。我々はその選択肢を与えない」

「___吸血鬼は、吸血鬼を作らない?」

「鉱石は魔力の塊。だ」

「___巷を騒がしている、吸血鬼騒動は……第三者。吸血鬼でも何物でもない何かの仕業?」


そして、その目的は吸血鬼を作る事。


「それを加味して、烏も含めて。人は我々を吸血鬼と呼ぶんだよ。人間」


血液を盗む第三者。

そして、鉱石を盗む者は同じなのか?

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