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備品科の魔女   作者: 式式
代償を食む
14/19

明け方に非ず

 長髪の髪を纏めながら、がっしりとした体格の青年が、其処には居た。


「ん? 続?」

「名護の見舞いか? アイ」


 壁に寄り掛かりながらスマホの操作に勤しむその男は、病室前からも聞こえる談笑に顔を向けると、人が込み合っている事を伝える。

 名護さんはクラスでの人気も高く、彼女の周囲には人が集まる。そんな名子さんが倒れたという知らせを受け、病院に担ぎ込まれたという話が広まればこうもなると予想も出来る。


 あの日から十数日後、名護さんは猫から解放された。

 自宅にて倒れているところを父親に発見され、そのまま病院へと担ぎ込まれたらしい。

 幸い命に別状は無いが、様子見も含め二日程度の入院となり。


 そして現在に至る。


「まあね。後、病状見に来たってのもあるけど」

「元気そうだろ。容体は変わらないって、加賀先生も言っていたしな」

「……お前は?」

「弟子の顔を見に。後、ついでに名護の見舞いだ。お前と大差ねぇよ」


 竹刀袋を背負い直しながら、青名あおなつづは続けた。

 四人部屋からは談笑が聞こえていて、名護さんの人気が知れる形となる。談笑に終着点は見えなく、何気ない話に夢中の様だった。


「名護とデートしてたって?この色男」

「大変申し訳ないとは思いましたが、一応連絡を入れておかねばと思いまして。ごめんあそばせ」

「嫌味を連ねる口は縫い合わせなきゃいけねえようだ」


 力強く肩を叩く続。


「この後暇か?」

「バイトは終わったし、特に用事は無いけど。……家の門限七時だからね。それまでに終わる用事ならいいけど」

「どうせ明日休みだろ?お前、部活ないんだから付き合えるよな」

「……もう一人の妹に殺されるんだけど」

「今日くらい羽目を外せ」

「ハイハイ。ンで、何の用事?」

「弟子音楽好きだろ。アイツが治ったら、高性能のイヤフォン買ってやりたくてな。そう言う類のを探すの、お前の方が得意だろ?」


 電気製品を理解できなくてな。

 そう言いながら、同じ電気製品であるスマホを操作する。矛盾を内包する言葉にツッコミを入れるよりも先に、楽観的に言葉を続ける言動に怒りを覚えた。


 青名あおなつづは昔からの友人だ。

 その上、妹の病状が手に負えない所まで来ていることを知っている。

 

 だからこそ、楽観的な言葉を吐く事は出来ない筈だった。


「……治るとは限らないだろ」


 思わず、言葉を呟く。

 この十年以上を棒に振って、一向に治りもしない病気と闘い続けている。

 それがどんなに苦しいのか俺でさえ分からない。悲観的に考えるなと言われても、精一杯の生にしがみついている妹へそんな言葉が言えるのか?

 年相応に不安を持っている癖に、それでも我慢を続けている八重にとって、お前が希望なのが理解できないのか?


 そんな思いが内包した言葉だ。


「治らねえとも限らねえよ。それに…、俺がいつ終わるのかも、アイツが何時終わるのかも誰も分からない。

 今のうちにアイツの為に何かを残しておきたいのは何時だって変わらない。俺にもお前にも言える事だ。俺達が五体満足で居られる事は、現在でしか証明出来ない」

「……何かあったの?」

「常に『何か』は起こっているさ」


 何かは起こっている。

 その言葉を重く吐き出す。


 少しばかり覗いた表情は、何時ものフランクさが抜けていた。


「……」

「ま、何もねえよ」

「何もない訳なさそうだけど?」

「何もないことにさせろ。あ、そうだ。お前、吸血鬼の噂話。知っているか?」


 話題を変えるようにそう続けた通津に対して、多少考えて思い出す。

 先週と今週。立て続けに流れていた奇妙な事件だ。

 

 この町の中央病院で、輸血パックが何者かに奪われた事件が発生した。事件は深夜、夜勤勤務の看護婦が巡回中に起こった出来事であり、使節内での犯行ではなく、外部からの侵入者として被害報告がなされた。

 当時、病院のいたるところに鍵がかかっていたが、屋上の錠前が何者かによって破壊された為、犯人は屋上から侵入し犯行に及んだとされている。

 現場では犯人の物と思われる指紋が見られたが、病院内に設置されていた監視カメラには犯人の姿は映っておらず、警察は、内部での犯行にも疑いをかけている。


 週刊誌は、この事件を吸血鬼の仕業だと煽りを入れ。

 マスコミ各社もそれに便乗していた。


「……ニュースのあれ?」

「おう。それ」


 確か、同様の事件が個人病院などでも起きていて、警察は外部班の方針を固めていると聞いている。


「今日。西沢病院の方でも出たらしい。気を付けろよ?お兄様」

「吸血鬼。ね」

「血輸パックだけを狙って犯行に及ぶ愉快犯だ。ほんと、何をするか分からねえからな」

「警察の方では何か掴んでいたのか?」


 続の親は、二人とも警察関連の人間だ。

 その為か、幼いころから人を助ける事を誇りとして、実際に何人もの見知らぬ誰かを救っている。

 だから事件があれば自分で調べるし、そういった資料を集めるのを得意としている。それはそういった正義感から持ち合わせている杵柄だろう。

 

「今までと同じだよ。病院では厳重に施錠がされていた。が、奴は病院内の監視カメラに一切映らず盗んでいった。現状、共通点は一つだけ」

「それは。……屋上?」

「正解。今回も、屋上の鍵が外から壊されていた。小さいとは言っても四階建ての病院だ。登攀していたとして、身軽な奴だったんだろうな」

「サーカスにでも務めているのかな?」

「そいつが誰であれ、犯罪者には変わりない。アイツにも十分注意するように言ったが、お前も気を付けろ。そう言う奴らは、追いつめられると見境が無いからな」


 そういった人間を見た事がある言い方だ。

 まるで。


「なあ、つづ

「何だ?」

「吸血鬼を信じている?」

「……そんな訳あるか」


 馬鹿馬鹿しいと、彼は続ける。


「これからちょっと趣味に没頭しなきゃいけなくてな。もしかしたら、今後見舞いに行けなくなるかもしれない。お兄様には、自分の妹ぐらい見守ってもらわなきゃ行けなくなる訳だ。

 ……っと、話は終わったらしいぜ?」


 離れていくクラスメイトに挨拶を交わした後、名護さんの居室に入り軽く会釈する。

 四人部屋の窓際で、彼女は凛とした笑顔を見せていた。

 その様子を見て少し笑いながら、続は片腕を上げて挨拶を終え、俺の肩を掴み言った。


「名護。『アレ』まだ借りてるわ」

「青名君。……お見舞いの言葉よりもそれですか?」

「それは存分に言われただろ」

「……相木君も、来てくれたんですね」

「元気そうでよかった名護さん。ちょっと野暮用に付き合わないと殺されそうなので付き合ってきます。僕が死んだら、続が犯人だから警察には宜しくお願いします」

「趣味っていう野暮用が俺達にはあってな。名護」


 お見舞いの品だと、彼は手紙を渡した。

 両手で受け取った名護さんは、それを受け取ると大切そうに懐に仕舞う。

 ありがとうございます。そう彼女は呟いた。


「相変わらず忙しそうですね。2人共」

「悪い。今度、此奴みぎがわのやつが埋め合わせするらしい」

「あの店のフランスサンドでいいならね。尽力するよ」


 ……何の手紙か。

 気にならない訳では無い。


「ありがとうございます。……相木君」

「体に気を付けて。それじゃ」



 それを聞き出す勇気も、根性も無く病室を後にした。

 長々しい話をする気は無かったから、これでいいと思い続ける。

 あの時の答えだって、臆病な自分には聞き出せないだろう。


 君は、猫だったのか。


 たとえ一人で出会ったとして、俺は、そんな話が出来たのだろうか?



 そんな事を考えながら、手を振る彼女に答えた。






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