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備品科の魔女   作者: 式式
代償を食む
12/19

5月雨

 五月の中盤に差し掛かかり、退屈そうな師匠は目ノ前で欠伸を始める。我が愛しの相棒。ぐっしゃんが、自身のテリトリーであると主張を変えず、俺の膝代わりに師匠を占拠するのにも慣れてきた頃。

 師匠は、こちらを見る。外の様子は相変わらずの雨であり、天候が変わる事は無さそうだった。


「師匠。それで?」

「ん?」

「何かいう事は?」

「何?」

「師匠の棚のお菓子。全部、猫の餌にしますよ?」


 勿論、そんな事をする気は半分程度しかないが。


「何を怒っているんだ?我が弟子。彼女は元に戻っただろう?それに、私もこうしてあの神社の石を手に入れる事が出来た。誰もが納得できる最大限の譲歩だ。これ以上の結果は無い。私が言うのだから間違いない」

 

 彼女の話。

 猫の自殺劇から、少し日数を挟んだ日。

 目の前の彼女。雑貨店”宮の雑貨店”の店主、宮式みやのしきは悪びれも含めずに答える。ようやく開花した紫陽花に蝸牛が雨水共に打たれる様子を横目に、俺は頬に手を当てた。

 その眼は確かに師匠を捉えていて、煮えたぎる腹の中をどうにか抑えようとしてる様子を隠さず、少しばかり悪びれのある顔でチラチラとこちらを見る師匠を、確かに捉えていた。


「何時でも言っているはずだ。私は誰よりも平和主義さ。この街に関して言えば……。私は、誰よりも利益より、この町の存続に手を貸すのだからね」

「師匠……」


 梅雨が支配するこの季節。気温は確かに肌寒さが香る。

 そして、それを理由にいつの間にか出された炬燵。

 師匠は身の回りを清潔に保つ作業が嫌いであり、その大半の掃除という業務は弟子である俺に乗りかかる。師匠が一生懸命に寒さを和らげるために引っ張り出したこの炬燵を仕舞うのは、勿論例年通り俺の役割であり、四月中盤にはその機能を封印したはずだ。

 しかし、それをわざわざ元に戻した挙句、その周りでは物が散らかっており、ダメ人間たる本筋を隠そうともしない。それを見かねてはいた嘆息を、このロリババアは別件のストレスに対しての対応だと勘違いをなされている。それはそれで、これはこれであると声を大にして言いたい。

 その代わりに笑顔を崩さず。

 その代わりに一つ一つ散らかったそれを片付け終えた後。


「諦めろって言っているのが理解できませんか?」

「これを片付けるのは早いだろ!!」

「五月まで現役なのは師匠の家ぐらいですよ?師匠。俺は師匠の身を案じているだけです。決してこの前の話に対して忖度を付けていません。だから師匠。”片づけます”」


 それは決定事項であるというかのように、それに手を伸ばす。

 彼女の家は相変わらずにぎやかであり、梅雨の寂しさを掻き消す。

 こうして喧騒も織り交ぜながら、時間が過ぎていく事さえ、日常と化している人間にとっては日常に他ならない。


 騒がしい日々は相変わらず続く。

 それは、決して俺だけに限る事は無い。






 バイトを終えた後、俺は病院へ向かった。

 猫の被害者と、自身の日課の為に。







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