三組目(前門の虎、後門の狼)
モブまで美形の異世界転生って美味しいかと思ってました
「それでは、双方合意のもとでの婚約の解消でよろしいですね」
「いやだ。私はアステリアと結婚する」
そう言ってべしょべしょ泣きながら訴える実年齢13歳(精神年齢9歳と思われる)の男子は引くわぁ。
第一、私ショタでもロリでもないんで13歳って守備範囲外だし。
愛されてる実感より、おもちゃ屋で泣き叫ぶ子供にしか見えなくて、面倒くさい。
あ、申し遅れました。私、泣いて縋る男子の元がつく婚約者。アステリア公女
12歳(精神年齢40前後。正確な年齢はオホホですわ)勘の良い方ならおわかりかと思いますけど、そうです。私、転生者でございます。
異世界で生まれ変わったと覚醒したのは、5歳の冬。
流行病に倒れ生死の境を彷徨った時に、過去というか前世の記憶がよみがえりまして、大量の情報に、知恵熱も出て更に1週間寝込みました。
なので、子供らしからぬ老成した物腰も『大病の後』って免罪符で絶賛スルーで助かってます。
大体、転生者っていうと、前世の記憶を元に、もしくはチートスキルで大活躍が相場だと思うんですよ。しかーし、私の前世は薄い本の作家。普通の事務職とオタクの二足わらじで、18禁BLマンガという、この世界の宗教&道徳観からいうと使い道が全くないスキルしか持ち合わせていなかった。orz←アラフォーの私だからあえて使ってみるw
しかも死因が、締め切り前の修羅場で、三日ほどカフェインのアンプル片手に徹夜したことが原因だったなんて。人には絶対言えない。
「殿下、これは帝国との友好関係を築くための政治的意図での決定でございます。既に、アステリア公女さまはご理解されて署名をされております。
ささっ、こちらに早く」
そういうと二人羽織よろしく、押さえつけての署名強行。
『前世なら、無効だよなー』と思いつつ眺めておりました。
なぜ、王子殿下がそこまで私に執着するかというと、今世の私、国一番の美姫なのでございます、オホホホ。主役級からモブまで美形ひしめくこの世界でも、群を抜いてるといいますか。なんか、前世のスキル同様、中身アラフォーでオタク拗らせてる私には、無駄なスキルの気がしなくもないけど。
とにかく、艶やかな淡い金髪に、ミルク色の肌。瞳はサファイヤのような素敵なブルーで薔薇色の頬に艶やかな唇。12歳ですからそこそこと言っても、スタイルは完璧。さらに華奢で儚げな印象が世の殿方の庇護欲をかきたてるようで
モッテモテなんです、私。
「これで、お二人は婚約解消されました。
アステリア公女さまへは感謝の言葉しかございません」
「いいえ。この国の貴族として、国と民のために尽くすのは本望でございます。
それでは、ユリウス殿下、ごきげんよう。御幸せに」
そう言って完璧な淑女の礼を取り、「アステリア〜」と泣き叫んでる王子を置いて王宮を後にした。
本当、うざい男子だったよ、ユリウス王子。
公爵家の馬車に乗り込むと侍女のエマが待ち構えていた。
「お嬢様、どうでした?使えそうですか?」
「バッチリ。なんか、ユリウス王子を帝国の皇女さまが見初めたらしくって。
中身あんなんだけど、見た目はいいからねー。で、どうしても結婚したいってごねたらしい」
「あー、なるほど。無駄にイケメンですからね、王子。喋らなければ。
どうでしょう、次は俺様王子の溺愛で一本いけそうですね。もちろん、俺様王子は帝国の皇女様ですけど」
「そうなのー。とは言ってもまんまじゃ面白くないけど。
とりあえず、新鮮なうちに早くラフだけでも描いておきたい」
「そう思って用意しておきました」
エマは画板と木炭を加工した鉛筆もどきを渡してくれた。
今世でも”謎作家トーティ”として薄い本の作家活動を始めました。
「流石、エマ。できる侍女。あーでも、これで創作活動の時間が確保出来る。
正直、王妃教育にとられる時間との両立がきつくなってきたから」
「この間みたいな徹夜は旦那様と奥様の手前、できませんものね」
そう、私のスキルが存分に活かされるようになったのは、私が10歳の時に行儀見習いで上がってきたエマと出会ってから。大病を患ってからご令嬢とのおつきあいがさっぱりだったのを(中身アラフォーなんで流石に話が合わなくて)心配した両親が探してきた大きな商家のお嬢がエマ。
私とは3つ年上の今、15歳。裕福な商家のお嬢ということで、人好きがするさっぱりした気性が、精神年齢の年の差を超えて気が合いまして。
それに、大衆受けするものには敏感で、ついつい薄い本の話を告白するまでに。話してみれば、エマのスキルは複写と転写。
法に抵触する恐れもあるスキルなんで、色々縛りもあるらしいですが、薄い本の作成には欠かせないスキル。
エマ一人でアシスタントと製本までこなしてくれるスーパーお嬢なんですよ。
マジで一生お嫁に行かないで、私のそばにいて欲しい。
ラフを書き上げる頃には屋敷に到着した。のはいいけれど、なんか騒がしいんですけど。
いつもなら扉を開けてくれる執事のセバスが今日は……お父様?なんで。
「アステリア、殿下とのお話し合いは終わったかい?すまんな。一人で行かせて。
理由が理由だけに婚約すらなかったこととして処理したかったらしいのだ」
『大方、そんなことだろうと思いましたよ。エマも王宮には入れなかったし』
「それでな、帝国の皇子が非公式にお前に直に詫びたいというのだ」
なんですとー。わざわざ、そんな面倒なことを。
内政干渉的な強引な婚約といい、大丈夫か帝国。
「私に、ですか?」
「そうなのだ。今、翡翠の間にいらっしゃる」
翡翠の間は、うちで一番いい客間だ。めんどくさいなー。
画板をエマに預けると、そのまま客間に行くことにした。
着替えることのだるさを考えたら多少の不敬に目をつぶってもらうことにした。
お忍びでいらしたわけだし。いいよね。
「お待たせいたしました。アステリアにございます」
非公式なんで皇子への美辞麗句は割愛。ただ、最上級の礼の形でご挨拶はします。
「座ってくれ給え。此度はすまなかった。我が妹の我儘でそなたを傷つけてなければ良いのだが」
「いえ、お気遣いは無用にございます。殿下。それより、わざわざのお運び痛み入ります」
「うむ、謝罪の意味もあったのだが一つ聞きたいこたがあってな」
そう言うと、私の隣に座る皇子。いつの間にか人払がされている。
とは言っても、開け放たれた扉のそばに護衛は待機してるけど。
「そなたは『錆猫』殿ではあるまいか?」
いっやー、ヤーメーテー。
その名前は即売会とオフ会以外では聞きたくない名前。
イケメン、イケボで囁かれても。ということは、こいつも転生者か。誰だ。
私の前に死んだ奴を、前世の記憶を手繰ってみたがわからん。
カップを持つ手がカタカタと震える。
「実は、先日、面白い本を入手してな。その絵が、あまりにも……。
あまりにも知人の絵にそっくりで、嬉しさのあまり調べさせたのだ。
転写のスキルは痕跡が残ることを失念していたようだな。」
しまった、後ろ書きに本名を晒す痛恨のミスぐらい痛い。
「と、いうことは皇子も転生者ってことですか?」
こうなったら単刀直入だ。
「HNはTAMAといえば覚えてるか?」
「あの、腐男子たま?」
忘れられるか!
私の熱烈なファンで即売会とオフ会には毎回くる厚顔無恥で空気読めない喪男。
一度、居酒屋で私の作品の賛辞を18禁の伏字満載の大声で語ったせいで
出入り禁止になった黒歴史。
「で、そのたまが何の用?」
はい、マウントは取りました。
「うん、実は僕と結婚してもらいたいなーって」
「はいぃ?」
照れるな。キモい。
見た目は鉄紺色の髪に紺碧の瞳。前世のかけらもない美形ですけど。
まあ、それを言ったら私もだけど。
「わかってるよ。前世で厄介だった性格は、ここに来て15年過ごす間に少しは矯正されてると思うんだよね。それに、この世界で内緒で創作活動するのって前世より大変だと思う。いずれ、他の婚約者が現れて結婚したとして、その後も書き続けられると思う?でも、僕とだったら、なんなら一生描き続けても構わない。全面的に応援するし、何と言っても第二皇子だから国母にならなくてもいいんだよ」
はー、相変わらず独りよがりなやつ。
確かに、こいつの言うことも一理あるんだけど。
あの、うざい王子の後釜がコレかと思うと創作意欲が禿げしく削がれる。
「今、返事はできないけど、万が一、万が一だからね。
結婚するとしたらエマは連れてってもいいの?」
「もちろんっ!」
嬉しそうに即答しやがったよ、こいつ。
あー、もう。ニヤニヤすんなよ、キモいから。
もう、完全にイケメンフィルターは外れてうんざりしかないんですけど。
こんな男と本当に添い遂げられるの?自分。
「気持ちはありがたいけど、やっぱ”たま”のイメージが拭えないからパスかなぁ」
おっと、泣きそう。こいつもここで泣いちゃう?
「錆猫殿はまだ12歳。お友達から始めてもらってもいい?で、僕が本当に変わったと思ったら偽装でもいいから結婚して」
「じゃあ、まず、錆猫禁止。そこから始めてみようか」
その後、お父様と嬉しそうに雑談しながら帰っていた腐男子たま。
もとい帝国の第2皇子。
いざとなったら、帝国の権力発動されそうよね。今回みたいに。
転生って美味しいと思ってたのに、なんか、悪い夢見てるみたい。
婚約解消に次元を超えたストーカーからの求婚。ヘビーすぎ。
とりあえず、自立する道を模索しようと思った12歳の昼下がりであった。




