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閑話(あなたはだあれ)

 卒業を祝うパーティーでにぎわう中、一組の男女が誰かを探している。


「くそっ、なんでこんなに人が多いのだ」

「ウォルター、まだ見つからないの?」


 ウォルターと呼ばれた男は鮮やかな水色の髪をかきあげた。傍らには淡い紫の髪をした少女を伴っていた。

 この日の為に誂えたであろう二人の服は色もだがデザインも対を成していた。

 この二人に会えば、誰が見ても友人以上の関係だとわかる服装だった。


 二人は人の波を縫うように、手近にいた者を捕まえては探し人の所在を聞きながら進んで行く。


「あ、いた。あそこに」


 探し人を見つけたらしく、二人は、輝くばかりの金髪の女性めがけて突進していった。


「アマリエ、今日という今日は決着をつけてやる」


 後ろから肩を掴み、自分の方へ顔を向けさせた。


「えっ?なんでしょう?……」

「よく聞け!お前のような奴とは今日を最後に、金輪際顔を合わせるつもりはない」

「な、どういう事ですの???それより、あなたは......」


 その女性はウォルターの手を扇を使って肩から払いのけた。


「くどい、お前がマリカにした数々の嫌がらせ、証拠は上がっているぞ」

「そうよ、いつも嫌味ったらしく嫌がらせをしてきたじゃない。自分がウォルターさまに相手にされないからって逆恨みしちゃって」


 アマリエと呼ばれた女性は、どうしていいかわからずに辺りを見渡す。

 が、残念ながら近くに友人も顔見知りもいなかった。


「それは、誤解だと思いますけど———」

「誤解などではない!現にマリカがどれほど傷ついたか」


 そう言ってマリカと呼ばれた少女の肩を抱く。


「ああ、もうっ。私、マリカさんとやらに会ったのは今日が初めてですわ!」


 地団駄を踏むように言うと、この場を去ろうとした。


「何を言うか。この後に及んで白々しい。そこまで言うなら覚悟しておけよ。追って我が侯爵家から婚約破棄の沙汰がそなたの家に届くからな」


 そう言い切った男は胸を張って尊大な態度を崩していない。


「はぁ?婚約破棄?婚約破棄って…….」


 その時、女性の後ろから同じ金髪の美しい男性が現れた。


「アリアネ、どうした?何か問題でも?」

「お前は関係ない……。ん?アリアネ?」

「そうだよ、私の妹のアリアネが何か?」


 手に持っていた飲み物を妹に渡すと、ニコラスはウォルターを一睨みした。

 妹に無礼を働いた男に自己紹介をする気はさらさらなかった。むしろ、早く妹を引き離したいとさえ考えていた。


「お兄様、私、知らないうちに婚約をしていたようですわ。この方が言うには、我が家に『婚約破棄の沙汰』が届くようです」

「まあ、どうしましょ。婚約もしていないうちから破棄だなんで。傷が付いていまいましたわ、お兄様。私、もうどこにもお嫁にいけないのかしら」


 アリアネは扇で口元は隠しているが、笑いを含んでいるのはよくわかった。


「何?家長の私を差し置いての婚約とな?それは由々しき問題だ、アリアネ」

「しかし、ウォルターとやら、アリアネの話を聞けば婚約も解消になっていない内から、公の場にそのような服装では、そちら側に非があると思われても仕方ないと思うがな」


 そう言ってウォルターたちを上から下まで不躾を承知で眺め回した。


「いや、あの、それは……。申し訳ない、人違いをしていた」


 ウォルターは先ほどの勢いとは違い、声は小さく聞き取れないほどだ。

 マリカは視線さえ合わせない。


「そういえば、アマリエ様とおっしゃいましたけど、もしかして、アマリエ様の婚約者のウォルター様でいらっしゃいます?カスバートン侯爵家の?」

「———いかにも」


「あら、おかしいですわ。それならここに御出でになれないはず。今年は卒業を保留された方がお二人いらしたと聞いております。確か、そのお一人ってウォルター様の事でしたわよね。ここにはどうやって?招待状は卒業生のみのはずでしたけど……」


 言い終わらぬうちに、二人はすごい勢いで会場を後にしていった。

 後姿を眺めながら、ニコラスがアリアネに言った。


「アマリエ嬢とは、先ほど挨拶を交わした辺境伯のご令嬢のことか?」

「そうですわ。あの方に間違われるのは光栄ですけれど、どう見ても髪の色が違いますのに」


 いささか不満げに兄に文句を言いながら、後れ毛を弄んでいる。

 ニコラスは子供だと思っていた妹が、容姿に関してこだわりを持つようになるとは。と微笑ましく聞いていた。

 しかし、いくら会場の明かりの下とはいえ、アリアネの金髪と、アマリエ嬢の艶やかな赤みのかかった美しい金髪を間違えるなどありえないとも思った。


「不審者を入れないように、警備の者に言ってこよう」


 そう言うとニコラスは、アリアネを近くにいた知人の元まで送り届け、その場を離れた。


『辺境伯か。であれば、我が公爵家に不足はない。戦争と恋は手段を選ばず。だ』

 そう独白すると、前方に見えるあの赤みのかかった美しい髪の女性の元へと足を向けていた。

この後、ちょっと重苦しい暗いお話が何話か続きます

その前の一息


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