第7話 高価な餌
『臓器売買』......普通に考えると、この法治国家日本において、そのような事が行われているとは考えにくい。しかしここは南の孤島であり、本土はおろか周辺諸島との交流も極めて少ない。大掛かりな違法行為を行うには、持って来いの場所とも言えるた。
もし、仮説が正しければ、鮮度の良い栄養のバランスがとれた食事が出てくるのも納得出来る。なぜならここに居る人間の臓器は、高価な商品なのだから。家畜の餌と同じだ。
「問題はどうやって逃げるきっかけを作るかなんだけど......」
エマの目はふと牢獄の片隅に向けられた。視線の先にある物......それはプラスチック製の食器に盛られた料理だった。
牢獄の片隅に無造作に置かれている。見れば料理には全く手が付けられていない。サラダ、ソーセージ、そしてエビフライ。
一般家庭であれば何の変哲もないその献立も、こと牢獄に至っては、一種異様な存在に見えるのも無理は無い。
春子はエマの視線が、手付かずの料理に向けられている事に気付いた。
「ああ......それは私が残したの。先の事考えたら食事なんて喉を通らない。でも食べないと看守にすごい怒られるの。困ったわ。あなた良かったら食べて。全く箸をつけて無いから」
「......」
エマの視線は微動だに動かない。殺気すら感じるその目は、瞬きすらしなかった。
「その料理がどうかしたのか?」
山本は眉を潜める。先程までとは明らかに違うその空気を感じ取っていた。
「ハッハッハッ......」
エマは突然大声で笑い始めた。今度は気でもふれたのか?
「お姉ちゃんどうしたの? 何がおかしいの?」
玲奈も不思議そうな顔。
「ハッハッハ......」
エマの大笑いは止まらない。
「ごめんなさい。意味解らないですよね。でも必ずここから抜け出せますから安心して下さい。何か......私眠くなってきちゃいました。今起きたばかりなんですけどもう寝ます」
そう言い終わるや否や、突然横になってしまった。
「臓器売買なんていや! お腹切られて臓器抜き取られるなんて絶対いや!」
春子は髪の毛を掻きむしりながら半狂乱。
「俺だってやだよ。臓器を抜き取られて死ぬ位なら、撃ち殺された方がましだ」
そんな二人とは違い、玲奈は妙に落ち着いている。
「お姉ちゃんが絶対に抜け出せるって言ってるんだから大丈夫だよ。玲奈もなんだか眠くなってきちゃった」
玲奈はエマに寄り添うように横たわった。
「俺達も寝るか......何か話が恐ろしくなり過ぎてきて、起きてたら本当に自殺しちまいそうだ」
「そうね。このまま起きてたら気が変になりそう。寝ましょうか。昼なのか夜なのか分かりませんが」
明日をも知れぬ身......不安で気が狂いそうになるのも理解出来る。正直、この牢獄に監禁されてからというもの、ほとんど誰も深い眠りにはつけていなかった。当たり前といえば当たり前だ。
よっぽど神経がずぶとい人間か、生きる事に興味を失った人間でない限り、この状況下において熟睡など出来る訳が無い。
ただここに居合わせた人達にとって、エマは絶望の中の一筋の光となっていたに違い無い。この娘なら何かやってくれるかも知れない......皆そんな可能性を感じていた。
グゴー、グゴー、グゴー
グゴー、グゴー、グゴー
先程まで騒がしかった牢獄内。一旦は静かになったが、今度はイビキの大合唱となった。




