第6話 野獣
「臓器売買」
エマはポツリと呟くように言った。
「今あまりよく聞こえなかったけど......何て言った?」
「臓器売買と言ったんです!」
「ぞっ、臓器売買だって!」
大人の二人は声を合わせて叫んだ。
「臓器売買って何?」
玲奈だけは首を傾げている。
「私達の臓器が抜き取られて、誰かに移植されるんだと思います。臓器移植が必要な人達と、私達の臓器が適合したから連れて来られたんだと思う。
恐らく秋葉会の病院のカルテで、適合する人間を隈なく探してるんでしょう。その仮説が正しいのであれば、私達の身体は彼らにとって大事な商品という事になります。
ですから移植手術をするその時までは、絶対に私達に手を出さない、いや出せないと思います」
「という事は、奴らは銃を持ってるけど、あれは威嚇だけで、我々に引き金を引く事は無いって事か!」
「そういう事だと思います」
エマはきっぱりと言い切る。しかし勇ましい発言とは裏腹に、エマの頭の中には一つだけ疑問が残っていた。
それは自分自身であった。自分は秋葉会の病院に行っていない。ではなぜ自分はここに連れて来られたのだろう?
ただ単に殺す為? 極神島の秘密を探ろうとしていたのだから、彼らに自分を殺す動機はある。だったらこんな所に連れてくる必要などは無く、すぐに殺せばいい。
殺すチャンスなどいくらでもあったはずだ。わざわざ眠らせてここに連れてくる必要など無い。しかし実際自分は今ここに居る。なぜだ?
そう言えば......『あなたは選ばれたのよ。神の僕になれるの』潮風で眠らされた時、女将がそのような事を言っていた気がする。
『あなたは選ばれた』
『神の僕になれる』
女将がエマに語ったこの二つのキーワード......それは今自分がここに居る事が、決して偶然ではない事を現している。
エマが料亭潮風に到着したその日......鼻血を拭いたティッシュペーパーをゴミ箱に捨てた。そして翌日そのティッシュペーパーは無くなっていた。
もしかしたらそれを調べられたのか?......もしそうならば、極神島の島民はここを訪れる全ての人間を調べているのかもしれない。
それが事実ならば、極神島の島民はもはや人を人として見ていない野獣と言っても過言では無い。短い間ではあったが、潮風で接した多くの優しい人達......
あの人達が皆野獣? 太一さんや真菜ちゃん......あなた達もそうなの? それは信じがたい事だった。




