第3話 誘拐
殺される!......牢獄の中に監禁されている者にとって、それは実にショッキングな言葉だった。
もしかしたら自分は殺される?
いや、そんな事ある訳無いさ!
これまで自分にそう言い聞かせながら、挫けそうになる心と常に戦ってきた人達にとって、エマの発言は実に残酷な現実だった。
「やっぱ殺されるのか......」
山本はがっくりと肩を落とし、無言で俯いてしまった。この世の終わりを見たような心境になったのであろう。無理も無い。
「私、まだ死にたくない。子供達が私の帰りを待ってるのよ。あの子達に何て言うの? 冗談じゃないわ! 何で殺されなきゃいけないのよ。私が何したって言うの!」
春子は周りの目をはばかる事無く、半狂乱で叫んだ。これまで無理やり理性で押さえつけてきた感情が、一気に爆発したのであろう。
「お姉ちゃん......玲奈は死ぬの?」
玲奈も悲しそうな顔。
「このまま何もせず、運命のまま身を委ねていたら間違い無くそうなるでしょう。でも私は殺されるのをじっと待っているつもりはありません。必ず抜け出します。皆さんと一緒に!」
エマはきっぱりと言いきった。
「何かいい方法でもあるって言うの? 私達は牢獄に閉じ込められているのよ。頑丈なカギだって掛かってる。しかも外にはいつも銃を持った看守が見張ってるし......一体どうやって抜け出すっていうのよ!」
顔は血の気を帯び、手は紫色になるまで強く握りしめられていた。可哀想な位に体はブルブルと震えている。
「だからそれをみんなで考えようって言ってるの。必ず方法があるはずよ!」
エマは必至の形相で訴えた。
「考えて出られるんだったらとっくの昔に出てるよ。うちらだってバカじゃない。色々考えたさ。さんざん考えたよ。だけど何も出て来やしない。もう気が変になりそうだ。ああ......もういやだ」
山本はその場にしゃがみ込み頭を抱えた。
エマは動揺する人達を尻目に、目を閉じ、修行僧のごとく考えた。会話が止まる......
恐らくここは、誘拐されてきた人間が、殺されるまでの間を過ごす待機所みたいな所。連れて来られた人間は、一定期間をここで過ごした後殺され、そしてまた新たな人間がここに連れて来られる。そしてまた消えていく......それがすでに五十五人繰り返されているという事なのだろうか。
最近、相次ぐ失踪事件が新聞やニュースなどを賑わせている。ここにきて、その数は極端に増えてきている。誘拐は犯罪であり、犯罪を犯す事はリスクを伴う。リスクを冒してまで犯罪を行うには、それなりの理由があるものだ。
極神教の儀式の為の生贄......たったそれだけの理由なのだろうか? いや、もっと他に大きな理由があるはずだ!
それは何なのか? その答えが、ここを抜け出すヒントになるに違いない。ここに誘拐されて来た人達は、たまたま連れて来られただけなのだろうか? であれば無差別誘拐という事になる。そんなはずは無い。必ず何か共通点があるに違いない......
エマは再び三人を見渡した。見た所、特に共通点は見当たらない。玲奈もやはり他の連れて来られた人達と同じなのだろうか?




