第2話 暗中模索
「ここはどこ?」
エマは初めて見る男女と玲奈に問い掛けた。
「見ての通り牢獄だ。囚人服を着てるって事は、監禁されてるんだろうな」
男性はまるで他人事のような口調で言った。
「牢獄の中......それであなた達は?」
「私は斉藤春子。誘拐されて気付いたらここに居たの。そう......三日前まではもう一人男性がここに居たんだけど、その人はこの間外に連れ出されて行って......その後どうなってるのか」
「俺は山本順。ここに連れて来られたのは多分三ヶ月位前。ここには時計も無ければ窓も無い。一日三度の食事だけが時間の経過を判断する唯一の材料なんだ。三回飯食えば一日って事だ。
それから胸ポケットに縫い付けられた通し番号なんだが、俺は055。つまりここに連れて来られた五十五番目の人間って言う事だ。
それと55の前に0がついてるって言うのは、この後もどんどん増えて、いずれは通し番号も三桁になるって事なんだろう」
長いヒゲで覆われた口から発せられる言葉は、妙に聞き取りづらい。何だかもごもごしている。
「三日前までここに居た人ってどんな人だったの?」
玲奈が大きな目をぱちくりさせながら聞いた。
「五十過ぎのおっさんだ。もうすぐ孫が生まれるって自慢げに話してたっけな。連れて行かれてからその後どうなったかは知らんけど、多分孫の顔は見れずじまいなんだろうな」
山本は苦虫を噛み潰したかのような表情で答えた。明日は我が身......そんな予感があるのかも知れない。
「その人もしかして......左顎に大きなホクロ無かった?」
エマが唐突に問い掛けた。三人にとってそれは実に意外な質問だった。
「えっ、何で? 確かにあなたの言う通り、左顎に大きなホクロがありました。どうしてそんな事知ってるの?」
男が外へ連れ出されたのは三日前......エマと玲奈がここに連れて来られるよりも前の話だ。
「おい、ちょっと詳しく聞かせてくれ。何であんたが三日前までここにいた男の事を知っているんだ?」
この女性は何かを知っている! 山本は身を乗り出した。何一つ情報の無い世界......自分達はこれから一体どうなってしまうんだろう? 毎日がそんな不安な気持ちに支配されている中、エマが一筋の光のように思えたに違いない。
それは春子も玲奈も同じだった。そんな三人の気持ちをよそに、エマは目を瞑り、洞窟内での記憶を蘇らせた。
三日前、エマが目の当たりにした極神教の儀式......それは正に妖気が漂う狂喜の世界。火が焚かれ、太鼓の音が鳴り響く中、意識朦朧とした白装束の男が、背中に『神』と記された刻印を打たれた。『神の僕に成りし者』......男はそう呼ばれていた。
皆が固唾を飲んで見守る中、エマは一旦呼吸を置き、そして静かに話し始めた。
「私はここに連れて来られる前、洞窟の中で行われていた儀式でその男性を見ました。タイミング的にこの牢獄から連れ出された直後だと思います。
その男性は背中に神と描かれた刻印を打たれ、その後神の僕に成りし者と告げられました。神の僕とは、極神教の教えで仲間の為に命を捧げた者のみがなれるとされています。
つまりその男性は、その儀式の後命を捧げた......即ち殺されるのだと思われます」
エマは隠さず、有りのままを三人に伝えた。




