第5話 けやき荘
用がある......
その言葉には色々な取り方があるが、この中年女性は『借金を取り立てに来た』そうとったようだ。
それはここによく借金取りが訪れているという事の裏返し。
やはりお金に困っている事は間違い無さそうだ。
「けやき荘の大家さんデスね。宮田恵子サンとこには借金取りがよく来るんデスカ?」
「しょっちゅうよ。あたしんとこにも宮田さんは何時に帰りますか? とか、どこ行ってるんですか? とか色んな人が聞きに来るから煩くてしょうがないの」
人は不満を述べる時、なぜか両手を腰に当てる。その癖は日本人だけなのかも知れない。
そしてこの中年女性も典型的な日本人。ポールの前に現れた時からそのポーズだった。
「ワタシは借金取りでは無いのデスガ、チョット用があるんです。
宮田恵子サンの事で知っている事を教えて頂けませんか? モチロンお礼はします」
圭一はジャケットの内ポケットから、茶封筒を摘み出し、大家の女性にちらっと見せた。
情報を得るにはそれなりの金が掛かる。
「是非お願いシマス」
ポールは顔を近付け、近距離で大家の目を見つめた。
お金をちらつかせられ、更に若いイケメンハーフの眼力に耐えられる中年女性はいない。
「そおねえ。別に口止めされてる訳でも無いし......いいわよねえ。悪い事してる訳じゃ無いから」
「モチロンです。何も悪い事はありまセンヨ」
ポールはにこっと微笑みかけた。
「じゃあ話してあげる。先に頂戴よ......それ」
大家は茶封筒から目を離さない。
全く卑しい人間だ......
しかし少しでも情報を仕入れておかないと、ここで足取りが途絶えてしまう。
ポールは黙って封筒を手渡した。
大家の女性はひったくる様に封筒を掴み、素早くエプロンのポケットにしまった。
「宮田さん待ってても暫くは帰って来ないわよ。今日は二十三日でしょう。
毎月今頃になると娘さんの病院行って一週間位は帰って来ないの。
何か娘さん病気みたいで大変らしいわよ。医療費にお金が掛かるみたい。病院も遠いんだって。
でもそれとこれとは別だと思わない? うちだって慈善事業で部屋貸してる訳じゃ無いし。
家賃払えないんだったら、もう出てってもらおうと思って」
「娘さんが病気デスカ......娘サン何才なんデスカ? あとどこの病院か知ってマス?」
「見た目からするとそうねえ、多分五才位じゃない? 病院はとにかく遠いってだけで、どこかまでは知らないわ」
「そうデスカ......あとこれで最後デス。宮田サン去年離婚されたソウですが、前のダンナさんの事で何か知ってる事アリマスか?」
「詳しくは知らないけど、とにかく金持ちだったらしいわよ。やっぱ美人は得よね。
そのまま離婚しないでいれば、こんなぼろアパートで母子家庭しなくても済んだのにね。
セレブのままでいればよかったのよ」
「ワカリマシタ。今日は有難うございました。
ソレカラもし宮田恵子サンが家に戻られましたら、オデンワ頂けませんか。
これが私の携帯番号デス。もしお電話頂ければまたお礼をサセテ頂きます。宜しくお願いしマス」
ポールは携帯電話番号のメモ書きを手渡した。
「必ず電話するわ。もし帰ってきたらね。じゃあお仕事頑張って」
大家の女性はほくほく顔で自分の家へと戻って行った。
遠くの病院......それだけでは探しようがない。
手掛かりは極めて薄い。
宮田恵子の捜索も仕事に加わってしまった以上、探すしかない。
とりあえず一旦事務所に戻るとしよう。
時刻は午後六時。
日没時間は日増しに早くなっていく。辺りはすでに薄暗くなり始めていた。
ブルルー、ブルルー......
スマートフォンのバイブだ。
誰だ? ポールは携帯電話の液晶画面を見た。圭一からだ。
「はいポールデス」
「ポールいいか良く聞け。今さっきこっちで襲撃に遭った。相手は五人。
その内一人は始末したけど、まだ四人残ってる。美緒さんの実家も恐らく手がまわってるだろうから戻れない。
今からそっちに行く。準備しといてくれ。相手も組織立って動いてる事は間違いなさそうだ。
十分注意してくれ。二十一時にはそっちに着く。頼んだぞ」
「ワカリマシタ......事務所で待ってマス。気を付けて」
ツー、ツー、ツー電話は切れた。
事件はいよいよ動き始めた。
食うか食われるか、弱肉強食の世界。強い者、頭のいい者が勝ち残る。
戦いはもはや極神島だけに留まらない。
車は夕日を横目に南下を始める。東京の中心。新宿へと向かって......




