第6話 阿鼻叫喚
殺戮マシーンと化した千匹の大牙達は倉庫内の男達を全て咬み尽くすと、今度は火口から流れ出すマグマのごとく外へと流れ出し、次なる獲物へと襲い掛かって行った。
外で待機していた兵士らは、迫り来る千匹の大牙の勢いに圧倒され、腰を抜かさんばかりの狼狽ぶりを見せた。
闇雲に銃を乱射するも狙い定まらず、残り少ない味方の頭に銃弾を撃ち込む始末。
「ぐわっ!」
突如背後から後頭部を撃ち抜かれた兵士は、叫び声とも、うめき声ともとれる奇妙な声を発し、脳髄を一メートル四方に飛び散らせると、その場に崩れ落ちるように倒れた。即死だ。
一人、二人、三人......何の抵抗も出来ぬまま、兵士らは動く絨毯に飲み込まれていった。
気が付けば、倉庫の中も外も、至る所に赤い肉の塊が散乱し、すでに死体とは呼べない程に細分化されていた。
目の玉、耳、鼻、指、腕、足首......そこらじゅうに血みどろのパーツが転がっていた。
兵士らのどす黒い血液は、やがて幾筋もの川を造り出し、終点には幾つもの血の池地獄が出来上がっていた。
「さあ玲奈ちゃん。外に出よう」
全ての大牙が外へ出尽くしたのを確認すると、エマは玲奈を負ぶったまま、外へと飛び出して行った。
大牙達は後から現れたエマと玲奈には目もくれない。エマの特殊スーツは、自分らの鋭い牙を持ってしてもダメージを与えられないという事を、大牙はすでに学習していた。
知的高等生物にも匹敵するその能力と、無敵とも言える鋭い牙が合わされば、正に最強の殺人兵器と言わざるを得ない。
やがて一気呵成にやって来た十数人の兵士達も、気付けば厳七ただ一人となっていた。
厳七は銃を乱射し続けながら、家の裏へと廻って行った。
すべての弾を撃ち尽くすと今度は銃を投げ捨て、裏に置かれていた一斗缶を持ち出した。ガソリンだ。
全く......俺の研究の集大成がこれでパアだ。まあ仕方無い。
厳七は一斗缶の蓋を開け、満タンに入ったガソリンを大牙に向けてまき散らした。そしてガソリンを湿らせた布に火を付けると、大牙目掛けて投げつけた。
あばよ......
火は一気に燃え広がり、大牙は炎に包まれる。やがてその炎は瞬く間に家に燃え移り、倉庫にも飛び火していった。真っ黒な煙が天高く舞い上がる。
一方エマ達はと言うと、高木の上からその一部始終を見下ろしていた。辺りは一面炎に包まれ、まるで昼と間違う程の明るさだ。
火の粉を宙に舞わせながら、大きく羽ばたく炎......
嫌でも思い出す。
金吉さん今敵を討ってあげるからね......
「玲奈ちゃん。ちょっとここで待ってて。すぐに戻るからね」
炎を宿す程に輝くエマの瞳。玲奈は語らずともその決意を感じ取っていた。
「玲奈ここで大人しく待ってるから......必ず戻って来てね」
「うん」
エマは大きく頷くと、木の上から飛び降りた。
バサッ!
大きな音が響き渡る。その音に気付いた厳七が振り返る。エマの姿を視界に収めた厳七は、俄かに笑い始めた。




