第5話 毒
俺が扉を開けたら一斉に突入しろ!
男は後ろを振り返りゼスチャーで合図。
そして兵士は真っ赤な風船の如く顔を紅潮させ、一気に扉を開放した。
「飛び込め!」
その言葉を合図に、兵士達は怒涛の如く倉庫内へと突入して行く。
月明かりに慣れきった目は、即座に暗闇では機能しない。眼くら状態に等しい環境の中、兵士達は闇雲に銃口を四方へと向けた。
どこだ?
居るのか?
窓の無い暗闇の世界......
まさか積み上げられた檻の上から二人に見下ろされているなどとは誰が予想し得ようか。
あれ?
いない?
一瞬とも十年ともとれるような沈黙の時間が辺りを包み込む。
ん、何だ?
ようやく暗闇に慣れてきた兵士達の瞳に最初に映し出された映像は、もぬけの殻と化した大牙の檻だった。
ジー、ジー、ジー......
不気味な鳴き声が地響きの如く振動を伴い、足の裏へと伝わっていく。
ジー、ジー、ジー......
その振動はやがて兵士らの背筋に冷たいものを流し込んでいった。
まっ、まさか!
0%の死地に自ら入り込んでしまった彼らを、もはや救う手立ては無かった。
痛っ!
突如、口から心臓が飛び出す程の激痛が足に走る。
なっ、なっ、何なんだ?
それにこの赤い光は一体?
死地の中で彼らがようやく目にしたもの......
それは千匹もの大牙が群れを成して作り出す赤目の絨毯だった。
倉庫に侵入した総勢十名の兵士達は、あっという間に大牙の動く絨毯に飲まれていった。
助けてくれ!
至る所から慟哭の叫び声が響き渡る。その光景は正に地獄絵図と言ってもよい。
叫び声は地を這い、倉庫の外までも瞬く間に響き渡っていった。
「見ちゃダメ!」
エマは玲奈の目を手の平で隠しながら抱きしめた。
エマ、お前にはお前の大事な人達を守ってほしいんだ。優しいだけでは人を守れない。
時には鬼となれ!
躊躇するな!
これはエマの父国雄の遺言だ。
エマは目を逸らす事無く、兵士らの断末魔を見届けた。
お前達が今日まで歩んできた人生......
それはお前達が自ら選んだ道だ。
その道が正しかったのか?
正しくなかったのか?
それは『神』で無ければ解らない。
そして今、私がお前達にしている事......
それが正しいのか?
正しくないのか?
それも『神』で無ければ解らない。
私は自分が正しいと信じる道を進む。
『神』がもし、その道を正しくないと判断するならば、必ず報いが来るだろう。
その時は甘んじて身を委ねるだけだ。私は今お前達を殺す事に躊躇はしない。
それが私の正しいと信じる道だ。
エマの顔に迷いはなかった。




