第3話 脱出
どこにこんな体力が残っていたのだろうか?
火事場の馬鹿力......
そうとしか言いようが無い。
洞窟内は相変わらず狭く、足場も悪い。倒れそうになる度に、エマは壁に手をつき、体勢を立て直した。
何度か壁を這う得体の知れない爬虫類などに手が触れたが、幸いにもそれを気持ち悪がる余裕すら無い。
またこの辺りは一段と湧水の噴出が激しく、エマは頭からずぶ濡れになっていた。それは容赦無くエマの残り少ない体力を奪っていった。
足の感覚はとうの昔に無くなっており、エマが走っている原動力は気力のみだった。
やがてフラフラのなりながらも、先程まで玲奈が立っていたその場所に到着する。
そして明かりを前方に照らしてみると、約二十メートル先に再び玲奈の姿があった。
立ち止まってこちらを見ている。
そして二人の目が合った。玲奈はすぐ様、右の方向へと消えてい行く。
これはもしかして、ついて来いという事?
玲奈は味方なのか敵なのか?
味方ならば......
出口へと導いてくれているのかも。
敵ならば......
きっと罠に違いない!
エマは迷った。しかし結局の所、選択の余地は無かった。このまま何のガイドも無く、ただ闇雲に進んでいても脱出できる訳が無い。追ってくる連中に捕まるか、撃たれるのが関の山だ。
もう信じるしか無い!
エマは腹を括った。
そして考える事を止め、操り人形のごとく玲奈の影を追って足は勝手にステップを踏んでいった。
それからどれだけ走り続けたであろう。洞窟内の環境は徐々に変化を見せ始めていた。
いつしか湧き出る水は無くなり、風が吹き込むようになってきた。湧水でびっしょりと濡れた髪の毛が大きく靡くほどだ。
地上に近づいている!
エマは確信する。
そして最後に駅伝走者も音を上げるような上り坂が出現。つま先で地面にエッジを効かせながら、一歩一歩上り詰めていった。
そして遂に目の前に一筋の光が!
月光だ!
それは紛れも無い夜空に浮かぶ月の光だった。
エマは最後の力を振り絞る。出口まで残り三歩、二歩、一歩。暗黒迷路からの脱出だ。
出れた!
エマは四つん這いの姿勢のまま、広大な夜空を見上げる。
外はこんなにも明るいものだったのか?
夜だっていうのに......
これだけ長い時間暗闇を彷徨い歩いていたのだ。そう感じるのも理解出来る。
そして久々に味わう外気。外の空気がこんなにも美味しいものだったのか......エマは暫しの間、感傷に浸っていた。時が止まる。
一方その頃洞窟内では......
方々に散らばっていた足音が、一か所に固まりつつあった。
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
洞窟の中からエマの背後に迫り来る足音。追手もエマの後をつけて、洞窟の出口すぐ手前まで迫っていた。
「もうすぐ出口だ。準備はいいな!」
一人や二人の足音では無い。
十人? いや二十人?
それはまるで軍隊の行進のようだった。
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
追手はエマに休息の時間を与えるつもりは無いようだ。
洞窟を脱出したのも束の間、エマの背後にはもうすでに危機が迫っていた。




