第2話 追跡
彷徨い続ける事三十分。
結局、
「また元の場所に戻ってきちゃった」
ここは先程エマが傷口を縫合した場所だった。それは正に狐に化かされたような状態。
全ての道はここに通じる。そんな気にさえなってくる。
エマは体の力が一気に抜け、思わずその場にしゃがみ込んだ。張りつめていた緊張の糸がプツッと切れる。
もうだめだ......限界。エマはガックリと肩を落とした。
そして更に追い打ちを掛けるように......
「いたか? そっちはどうだ? 見付け次第撃ち殺せ!」
背後から響き渡る追っ手の声。
自分にはまだやらなければならない事が山ほどある。こんな所で死んでたまるか!
エマは最後の力を振り絞り、再び立ち上がった。
しかし、そんな強い気持ちとは裏腹に、体は言う事を聞いてくれない。足の関節は固まり、脳が動けと命令しても容易に軽快なステップを踏んではくれなかった。逃げなければ......気持ちだけが焦る。
更に分岐の左側からは別の声が......
後ろからは複数の足音......
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
「今こっちで人影が見えたぞ!」
「いたぞこっちだ!」
「お前は裏から回れ! 挟み撃ちだ」
四方から押し寄せてくる怒号と足音。それらは殺気に満ちていた。
エマは素早く岩陰に身を隠した。
いったい何人いるのだろう?
足音から判断すると少なく見ても十人。いや、それ以上かもしれない。
完全に挟まれた!
いよいよ終わりか?
こうなったら戦ってやる!
私は柊国雄の娘だ。恐れるものなど無し!
エマが玉砕覚悟を決めた瞬間だった。
「えっ?」
前方約二十メートル。エマの目は動く何かを捕えた。
それは追ってくる敵の姿とは明らかに違っていた。小さな人影だ。そしてその影からは全く殺意が感じられない。
左手に懐中電灯を持ち、こちらを照らしている。
えっ?
女の子?
やがてLEDライトの光は、その人影をしっかりと捕えた。
まさか玲奈ちゃん!
それは正に玲奈だった。大牙の倉庫で出会った少女だ。このような切迫した状況においても、屈託のない笑顔はあの時と変わらない。
何でこんな所に?
玲奈はエマと目が合うと、招き猫の様な手の動きでエマを導いた。それは『こっちにおいで』と言っているような仕草だ。
そして次の瞬間左の方 角へと消えて行った。
「ちょっ、ちょっと待って!」
エマは焦りの表情を見せながら、去りゆく玲奈の影を追った。




