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傷だらけのGOD 極神島の秘密 怒りのサバイバル!  作者: 吉田真一
第16章 暗黒迷路
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第1話 針と糸

挿絵(By みてみん)


子供の頃、外で遊んでよく服に穴を開けたものだ。その度に母が針と糸で縫い合わせてくれた。


朝、目が覚めてみると、昨日開けた服の穴が見事に埋まっている。それはまるで魔法のようだった。



針と糸......


それは本来、布などの繊維を繋ぎとめる時に使用する。


暗闇の中、ここにも針と糸で穴を埋める作業をしている女性がいた。頭上からは引っ切り無しに水が垂れ落ち、周囲では得体の知れない生物達がうごめいている。


明かりはというと、LEDライトの光のみ。洞窟内は気温こそ安定しているが、湿度は極めて高い。額からは汗が絶え間無く垂れ続け、精神の集中を妨げる。


お世辞にも繊細な作業を行うのに適した環境とは言えなかった。


そんな環境の中、その女性が縫っているものは穴の開いた服などでは無かった。


女性が縫い合わせているもの......


それはザクロのように裂けた自身の左肩だった。


左肩から湧水のごとく溢れ出す鮮血は、腕を伝って地面へと垂れ続け、いつしか足元には血の池が出来上がっている。


自らの体に針と糸を通し続ける女性......


それは紛れも無いエマだった。


着弾したのが左肩で良かった......


これがもし臓器だったら、対処のしようが無い。

 

とは言え、近距離から放たれた銃弾は、エマの左肩の肉を見事に吹き飛ばしていた。弾は体内に留まる事無く貫通している。裂けた左肩の皮膚は凡そ五センチ。


エマは強靭な精神力を持ってこれを全て縫い合わせると、服の一部を破き、患部に巻き付けて保護した。傷口の周りは見事に赤く腫れあがり、熱を帯びている。


危ない所だった......


あと一歩飛び出しが遅れていたら、今頃は屍となり、コウモリの餌にでもなっていたに違いない。


幼少の頃から、父国雄より合気道の英才教育を受けていたエマだからこそ、急所を外す事が出来たと言えよう。



厳七に撃たれた地点からこの場所までは、直線距離にして凡そ一キロメートル程度と思われる。


激痛に耐え、ふらふらになりながらも何とかここまでは逃げ寄せたものの、どこをどう通って辿り着いたかなどは全く覚えていない。


この痛み......


必ず倍にして返してやる!


エマは悔しさをバネにして、生きる力へと変換させた。



そもそも斉田雄二殺害犯をこの世から消し去る為にやって来た極神島。しかし、いざこの島に来てみると、エマの使命はそれだけに止まらなくなっていった。


船乗り金吉の敵討ち。


儀式で神の刻印を受けた男性の救出。


そして今では、極神教の秘密を暴く事までがそれに加わっていた。


いや、むしろ極神教の秘密を暴く事こそが全ての目的を達成する為の近道。エマはそう確信していた。


斉田雄二は極神教の秘密を暴こうとして殺された。


続いて金吉も雄二と同じ目的でここに来ているエマを船に乗せて殺された。


そして神の刻印を打たれたあの男も、極神教によってこの後『神の僕』にされようとしている。『神の僕』それが死を意味する事は今更言うまでも無い。


極神教、極神教、極神教......


全ての出来事が必ずと言っていい程、最後には極神教に辿り着く。


更に忘れてはいけないのが『大牙』の存在だ。遺伝子操作までして凶暴化したそれは、正に殺人兵器と言ってもよい。


もしかしたら自分はとてつもなく大きな敵に宣戦布告をしてしまったのではないか? そう考えると、今更ながら身の竦む思いがする。


しかし戦いはすでに始まっていた。後戻りは出来ない。ここが正念場だ。


よしっ! 


エマは気合を込めて立ち上がった。まずはこの死地から抜け出す事が先決だ。では如何にして難攻不落の巨大迷路から抜け出すか?


GPS機能......


ここが洞窟内であるが故に全く機能しない。


方位磁石......


周囲を覆う岩は、磁石鉱を多く含んでいる為、針は常に明後日の方角を示す。


目印の蛍光テープ......


あれだけの数を貼ったにも関わらず、ここまで一枚も目にしていない。剥がされた事は明らかだ。


燃え上がる気持ちとは裏腹に、今東西南北どちらを向いているのかすら分からない。エマは出口までの道標を完全に失っていた。


「確か......こっちから来たような気がする」


出口までの道標は無いに等しい。頼れるものは、僅かな記憶と勘のみ。


まずは一つ目の分岐を左へ進む。若干の上り坂だ。足場は悪く、表面を苔に覆われた石ばかり。


油断しているとすぐに足を囚われ、転び掛ける度に石は四方に飛び散り、大きな音をたてた。


自分はここに居るよと追手に知らせるようなものだ。慎重に進まねば......この上、足でも痛めるような事になったら、全ては終わってしまう。


エマは急ぎながらも、一歩一歩神経を尖らせて前に進んでいった。


そしてまた分岐だ。


「こっちか?」右へと進む。


勘以外の何物でも無い。


今度は若干の下り坂だ。洞窟は極めて狭く、高さは身長程も無い。足場が悪い上、屈んだ姿勢での歩行は体力の消耗を加速させた。


ハア、ハア、ハア......


酸欠状態に陥る一歩手前の状態だ。洞窟の奥だからだろうか......酸素濃度は極めて低い。心臓はバクバクと鼓動を早め、オーバーヒート寸前だ。


エマは左肩の痛みに加え、頭痛にも悩まされていた。そして時折激しい吐き気に襲われた。嘔吐などしようものならば、『私はここを通りましたよ』と道標を残す事になる。


エマは込み上げて来るものを何度も飲み込んだ。


その後も立て続けに分岐が現われ、その都度感覚のみで進んだ。

 

果たして出口へと向かっているのだろうか?


もしかしたら同じところをグルグル回っているだけなのではないか? それは神のみぞ知る事だった。



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