第6話 救出
清掃員は再び前に向き直り、歩き出し始めた。どこか急いでいる様子が伺える。
すると、清掃員が歩を進める前方から、微量な風が吹いてきた。
その風に乗って、僅かばかりの香りが圭一の鼻に届いた。
この匂いは!
「ちょっと待て!」
圭一は即座に清掃員を呼び止めた。
しかし清掃員は、止まるどころか、更に歩くスピードを早めた。
圭一が追いかけようとする頃には、清掃道具を積んだ台車を置き去りにし、一目散で走り去って行った。
あの清掃員には、間違い無く美緒の香水の匂いが付着していた。
清掃員が言う様に、美緒がトイレの個室内に居て、美緒と接触していないのであれば、匂いが清掃員に付着するはずが無い。美緒と清掃員が揉み合った可能性が極めて高い。
圭一は清掃員を追うのを止め、直ぐ様トイレの中へと突入した。
「美緒さん!」
圭一は大声で呼びかけた。しかし返事は無い。
圭一はトイレ内を隈なく見渡したが、個室の扉は全て開いており、トイレ内はもぬけの殻だった。
一方、正面の腰高窓は全開になっており、そこから西日が差し込んでいる。
外か!
圭一はすかさず窓から顔を出し左右を見渡した。
「!!!」
見れば作業着を着た男二人が一人の女性を両脇から押さえつけ、引きずりようにして歩いているではないか。
左側の屈強な男は、左手で女性の口を押えつけ、女性はその手を振り払おうと必死でもがいている。
美緒さん!
圭一は怒りが込み上げ、正に阿修羅の顔へと変貌した。
「こいつら!」
圭一は先走る気持ちを抑え、足音を忍ばせながら気付かれぬよう静かに近寄っていった。
二人の男は美緒が暴れるのを防ぐのに必死だ。圭一の接近には全く気付いていない。
右の男は幾分小柄な体格で鋭利な刃物を美緒の首に当てている。
「どうりゃあ!」
圭一は射程内に入ると突如雄叫びを上げ、後ろから左フックを顔面に見舞わせた。
ブコッ!
頬骨が砕ける鈍い音が立ち上がる。男は何が起こったかも分からぬまま意識を失い、その場に崩れ落ちた。口から泡と血を吐きだしながら、ヒクヒクと痙攣している。
「圭一さん!」
「美緒さんに何しやがる!」
圭一は続け様にもう一人の男に襲い掛かる。圭一の勢いに圧倒され、完全に戦意を喪失している様子。
「うわぁ!」
両手で圭一の攻撃をガードするが全く歯が立たない。
やがて圭一の蹴りが横から顔面に炸裂。男の口から歯が飛ぶのがはっきりと見える。この男も口から泡と血を吐きだしながら、その場に崩れ落ちた。
呆気無い幕切れだ。二人の男は完全にのびていた。
圭一にとっては、準備運動にもならない程度のバトルだった。
「圭一さん。きっと助けに来てくれると信じてた。怖かった。怖かったよ......」
美緒は圭一に抱きつき号泣した。
「美緒さん、すまん。俺がついていながら...... 危険な目に遭わせちまって」
美緒はなおも泣き続ける。しかし感傷に浸っている時間は無かった。そうこうしている間に、仲間が押し寄せて来るやも知れない。
「うっうっう......」
どうやら後に倒した男の意識が戻ったようだ。
圭一はその男に近づいていくと、襟首を力ずくでたくし上げる。そして足元に転がる刃物を手に取り、男の喉元に当てた。




