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傷だらけのGOD 極神島の秘密 怒りのサバイバル!  作者: 吉田真一
第13章 刻印
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第5話 一撃

幸いにもここは無風状態。エマは肌の神経を集中させた。手、首、顔......皮膚がピリピリする感触だ。


人が動くとわずかながらの気流が生じる。エマは空気の流れを肌で探った。


5m、4m、3m...... 


見える! 


そして次に耳を立てる。上着の擦れる音は聞こえない。ライフルの銃口は未だエマの頭に向けられたままだ。


ザッ、ザッ、ザッ......足音だ。地面を蹴る音の大きさで歩幅が見える。


男の呼吸音、心臓の鼓動音、ズボンのベルトが揺れる音、ライフルを握りなおす手の擦れる音。


それら全ての音と空気の流れが電気信号に変換され、エマの脳に映像として映し出され始めた。


見えた!


3m、2m、1m......エマの待ち望んでいた距離だ!


チャンスは一回。エマは息を止め、湧き出る殺気を押し殺した。


今だ!


エマは振り返る事無く、ひざまずいていた右足を一直線に斜め六十度後方へ蹴り上げた。


眼にも留まらぬスピードだ。


当たってくれ!


繰り出した踵は見事男の顎を捉えた。


ガツン! 鈍い音が響き渡る。


エマの閉じた瞳に映し出されていた映像に、寸分の狂いもなかった。手応えは十分だ。


決まった!


顎に放った衝撃は、減退する事無くそのまま脳を揺らした。



男は何が起こったのかも分からぬまま、突然足の力が抜け膝がガクンと落ちる。脳震盪のうしんとうを引き起こした時の典型的な症状だ。それはあまりに一瞬の出来事だった。


うっ......


男は奇妙なうめき声をあげた。


この隙に!


エマは即座に体勢を立て直す。しかしこの男只者では無い。


あれだけの一撃をまともに食らったにも関わらず、即座に脳を回復させた。そして起き上がると同時に、再び銃口をエマに向けた。目にも止まらぬスピードだ。


エマは左手を地面につき、それを軸として体を翻す。


銃口がそれを逃がさじとエマの後を追う。


エマは素早く立ち上がり、ライフルの照準の死角となる曲がり角へと猛加速で突進した。



挿絵(By みてみん)



あそこの曲がり角まで行ければ......


しかし洞窟内の自然は、エマに味方をしてはくれなかった。足場の悪さはエマの想定を遥かに超えていた。


瞬時に蹴りだした足の力は、石だらけの地面に十分には伝わらない。蹴った小石が四方に飛び散る。



ライフルの照準はエマの逃げ行く体にようやく追いついた。


そして......バンッ!


ライフルの銃口が火を噴く。


照準は確実にエマを捉えていた。


手ごたえは十分。


間違い無く命中しているはずだ。


仕留めたか!


逃げ去る足音は曲がり角を曲がったその先で消えている。


死んだか?


男はライフルの銃口を下におろし、額の汗を拭った。


「ふうっ、手古摺らせやがって」


男は蹴られた顎を摩っていた。腫れあがっている。内出血しているようだ。


痛いなぁ......


あそこから踵が飛んでくる事は、この男にとっても全くの想定外であった。



人が何か急激な行動を起こそうとする時、最大限の力を瞬時に発揮させる為、必ず息を大きく吸い込む。


ところがあの女にはそれが無かった。呼吸音が聞こえなかったどころか、筋肉の緊張も見た目には全く感じられなかった。完全に観念していると思い込んでいた。


いったい何者だったんだ? 


まあ今更どうでもいいか......


曲がり角を曲がったすぐそこに銃弾を受けた女が倒れている......


そう信じてやまなかった。疑う余地も無い。


男はゆっくりと曲がり角に歩を進めた。普通に歩いていても敷き詰められた大小の石に足がとられる。


歩きづらい洞窟だ。まったく......


そして角を曲がる。


「おや?」


予想を覆す結果。そこに倒れている人間はいなかった。


足音は確かにここで消えていたはず。宙に浮いて逃げた? そんなことはあるはずが無い。


「有り得ない! 確かに仕留めたはずだ」


男は徐に足元付近の石に目を留めた。


「んっ? 待てよ」


男はしゃがみこみ、地面に転がる一つの石を手に取る。そしてボソボソとつぶやいた。


「やはり俺のライフルの狙いに間違いは無かったって事か......まあほんのちょっと逸れたみたいだけどな。敵ながら褒めてやる。どうせ遠くには逃げれんだろう」


男は恭しく立ち上がった。そして手に取ったその石をポイッと横に投げ捨てる。石は壁に当たり、跳ね返ると再び地面に転がった。


男の投げたその石......


洞窟内に転がっている無数の石と何ら違いは無い。


べっとりと血が付着している以外は......


良く見れば一個だけでは無い。エマが走り去った方角には点々と血に染まった石が落ちている。それは「こっちへ逃げたよ」と石が追跡者を導いているかのようだった。


男は迷路のような洞窟内を、迷う事無く一歩一歩進んでいた。血痕という道標を頼りに。


「今行くから待ってろよ。どこまで逃げれるかな?この出血量からすると、かなり痛いんじゃないか?楽にしてやるから出ておいで。ハッハッハッ」


男の不気味な笑い声は洞窟の壁を跳ね返りながら、山びこの様に響き渡って行った。その声は確実にエマの耳にも届いていく。


くっそう......


そこには唇を噛みしめ必死になって前に進むエマがいた。もはやここに来た時のスピードは無い。


そして遠くから不気味な足音が近づいて来る。


ザッザッザッ......


ザッザッザッ......


血に飢えた悪魔の足音は、確実にエマを追っていた。



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