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第3話 後悔

「何か楽しそうだね。気のせいか?」


圭一は薄笑いを浮かべながら不思議そうに尋ねる。


「あなた営業って言ってましたけど、最近の探偵は営業しないと仕事が来ないんですか?」


美緒は圭一の質問とは全く別の質問で切り返した。


「ハッハッハッ。確かに変かも知れんね。普通の探偵なら事務所を構えて、広告やホームページやらで宣伝して、客が寄って来るのを待つわな。


口コミで来る客も多いだろう。ただうちは事務所の場所を公開してないし、宣伝もしていない上にホームページなんかも立ち上げちゃいない。


更に言うと、事件解決後にお客さんの命を頂いてるから、口コミが広がることも皆無に等しい。


紹介してくれる人が居たら、それは幽霊だ。ハッハッハッ」


美緒は自分の手足に鳥肌が立っているのが分かった。


そのような事を冗談みたいに話すこの男が、今更のように恐ろしくなってくる。


また、自殺するつもりの自分が、他人から命をとられると思った瞬間、恐怖を感じたことに納得が出来ない。


『死』


それは自らが望んだ事なのに......



その後、車は雨の中を快調に飛ばした。カーブを曲がる度にタイヤの鳴く音が響く。


何度も右左折を繰り返し、発車してから三十分程度経過した後、やがて車は停車。


美緒はこの場所が、発車した所からあまり離れていない事を確信していた。


この男は場所を特定されないよう、手の込んだ事をやっているにも関わらず、自分にはそれがお見通しであることが滑稽に思えてならない。


探偵? 


大したこと無いじゃない......


美緒は思わず薄ら笑みを浮かべていた。



桜田美緒......


とにかく賢い女性であることは間違い無い。一度決めた事は絶対に曲げない。そんな強い意志を持つ女性であった。


ただその反面、感情に対しては非常に弱い。冷静さを失うと何を仕出かすか分からない。そんな危険な一面を併せ持っていた。


美緒と接する者は必然と皆、彼女と距離を置いた。人は皆、防衛本能を持っている。


お通夜に参列した友人二人もその例外では無かった。一定の距離を保っていた事は否めない。


ただ一人だけ皆と違う者がいた。


それが斉田雄二だった。


斉田雄二は全てを曝け出し、美緒と接した。また美緒もそんな雄二にだけは、全てを曝け出し接することが出来た。


美緒は生れて始めて、身も心も許す事が出来る人に出会えたと感じていた。


そんな中でのこの事件......


美緒は完全に生きていく自信を無くしていたのであった。ふとするとまた絶望感が込み上げてくる。


雄二さん......


美緒は暗黒の世界の中で、何度も雄二の名を呼んだ。



「目的地に到着したぞ」


圭一は車を降り、外から助手席のドアを開け、美緒の手を取った。美緒はハッと我に返る。


「大丈夫かい? 顔色が悪いようだが......目隠しして車に乗ると、みんなどうも気分が悪くなるようだ」


みんな......


それは複数の人を指す時に使う言葉だ。


一体この男は、過去に何人の人をこの車に乗せて、連れてきたのだろう......


この男の言う事を信じるなら、それらの人達は皆すでに亡くなっている。


亡くなった人達が座っていたこの助手席に自分が三十分も座っていた事が今になって怖くなった。


出来る事ならこの目隠しも外したい......


この時、美緒の心の奥底では、少しだけこの男について来た事への後悔の念が生じていた。ただここで引き返せば、この男に負けた事になる。


絶対に引けない!......


美緒の心の中ではそんな葛藤があった。ただ、そんな葛藤を圭一に悟られたくはない。あくまでも気丈に振る舞いそして言った。


「どこへでも連れて行って下さい」


それはまるで、自分の意志の強さを誇示するかのようだった。


「承知した」


圭一はそんな美緒の内面の変化に気付いているのか、いないのか? 淡々と美緒の手を取り歩き始める。


「ここから下りの階段だ。足元に気を付けてくれ」


美緒は圭一の腕を強く握り、一段一段と慎重に階段を下りて行く。


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