第3話 思い出
明日にでも自分を殺しにやって来る輩に、手掛かりを残す訳にはいかない。燃やした物の中には、雄二や両親の写真も多く含まれている。
気が付けば一枚一枚食い入るように見入っている自分が居た。二十四年間で楽しかった思い出だけを、あの世へのお土産にしよう......
雄二さん。あの世できっとまた会えるよね。浮気なんかしてたら許さないから......美緒の涙は止まる事を知らなかった。涙は頬を伝い首筋にまで到達していた。
「トントン」
突然ドアをノックする音が。
「美緒さん。支度は済んだか? 中に入るよ」
圭一の声だ。
「どうぞ」
圭一が部屋の中に入ってくると美緒は思わず顔を背けた。泣いている顔など絶対に見せたく無かった。
「美緒さん」
圭一が静かに声を掛ける。
「......」
美緒は顔を上げた。その眼からは大粒の涙が......実に痛々しい。
過去に圭一も絶望にぶつかり、自ら命を絶とうとした事があった。そんな経験をした事がある圭一だからこそ、今の美緒の気持ちが痛い程よく解る。
そして静かに口を開いた。
「美緒さん。俺達は常に先の事を見越して行動しなければ生きていけない。ただ、あまり先の事を見ようとし過ぎると、今度は一歩が踏み出せん。今はエマさん達が斉田雄二の敵を討つまで生き延びる事だけを考えるようにしてくれ。
あんたは斉田雄二の敵を討つ為に我々と契約を交わしたんだ。だから我々が敵を討つ前に死んだら全く意味が無い。悲しんでいる暇なんか無いぞ。美緒さんらしく無い。しっかりしてくれ」
美緒は泣いている自分に、圭一は慰めの言葉でも掛けてくれるのだろう思っていた。しかしそれとは全く逆の言葉で、圭一は美緒を叱咤激励した。
圭一は更に続ける。
「絶望が絶望で終わってしまうのか、絶望の先に今はまだ見えていない希望が待っているのか、それはあんた次第なんだ。もっと強くなってくれ」
圭一の激励の言葉は、美緒の心を奮い立たせるのに十分であった。
「あなたの言われる通りです。もう泣かない。準備は出来ました。行きましょう」
美緒は立ち上がった。
人間はどこまで強くなれるのであろう? どこまで逆境に立ち向かえるのであろうか?
人は皆、口ではポジティブに生きなければと簡単に言う。でも本当にダメな時、それでもポジティブな気持ちに持っていく事が出来るものなのだろうか?
今、正に美緒がその状況にある事は言うまでも無い。
死んでしまったら全ては終わる。生きていても雄二はいない。この後どのように展開したとしても、絶望しか無いと思っているに違いない。
エマ達が敵を討ってくれたとしても、結局その後には自分の死が待っているだけだ。雄二はすでに死んでしまっており、敵を討った所で自己満足に過ぎない。決して雄二が帰ってくる訳では無い。
絶望、絶望、絶望......
今の美緒にはその言葉しか浮かんでこなかった。
『絶望』という文字は望みが絶たれる書く。望みが絶たれたと思う時......
それはもしかしたら、その場の状況から勝手に自分が望みを絶たれたと早とちりしているだけでは無いのか? すぐ先に希望と言う光が差している事に、自分が気付いていないだけなのでは無いか?
この後美緒に待っているものは絶望だけなのか? それともすぐ先に希望が待っているのか?
それは神のみぞ知ること。現時点では......




