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傷だらけのGOD 極神島の秘密 怒りのサバイバル!  作者: 吉田真一
第10章 密着
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第5話 ストーカー

一本目の角を右に曲がり、更に二十メートル進むと今度は左に曲がった。


ここで美緒は初めて後ろを振り返る。すると圭一の姿が見えない。



「あれ、いない......とうとう見失ったか?」


美緒はホッとため息をつき、再び前を向いて歩き始めた。その途端、後ろから何やらバタバタと走り寄る音が聞こえてくる。



「何事?」


美緒は再び後ろを振り返ると、一目散に走り寄ってくる圭一の姿が見えた。よくよく見ればスーツの左肩が破れ、ワイシャツの胸付近には血が付いている。


電車に飛び乗って転倒した際、鼻血を出していたようだ。


そんな圭一が大事に手にしているもの......それはたこ焼だった。



「ちょっとお腹空いちゃって。たこ焼きは俺の好物なんだ。美緒さんも一個食べるか?」


圭一はたこ焼きを口に頬張りながら、別の一個を美緒に差し出した。



「結構です」


美緒は冷淡にそう答えると、圭一に背を向け、再び『競歩』を開始する。



美緒は少し意外な気がしていた。


圭一は高級車に乗り、女性にも人気が有って、何よりも頭の回転が抜群に速い。それは先日、自分を『BAR SHARK』まで連れ出した事が証明している。


美緒の中で圭一は非常に気高く、敷居が高い人間と位置付けていた。そんなイメージであった圭一が、美緒を追ってずたぼろになり、更には庶民の代名詞でもある『たこ焼き』が好物であると言った事に対し、美緒は明らかに違和感を感じていた。



この人にこんな側面があったのか......


人は他人の意外な側面を発見すると、今まで持っていなかった親近感を覚えるよう脳が設計されている。そのギャップが大きければ大きい程、度合いも増していく。


美緒がこの時圭一に抱いた違和感は、少なからず親近感へと変化していた。


もっともそんな心境の変化について、圭一はもとより、この時点では美緒本人も気付いてはいない。



二人は何事も無かったかのように、再び歩き始めた。


そして美緒の住むマンション......それはそこから大して離れてはいなかった。


緩やかな下り坂を抜け、たばこ屋の角を右に曲がるとそれはそこにあった。RC造のその建物は、土地柄もありモダンな造りになっている。若者向きな建物だ。



挿絵(By みてみん)



美緒はゆっくりとエントランスのある中二階に続く階段を上る。圭一も一定の距離を保ちながらそれに続いた。


美緒はそこで突然振り返る。



「まさか家の中まで入ってくるつもりじゃ無いでしょうね?」 


「まさか。ストーカーじゃあるまいし。ハッハッハッ」


圭一は余裕の笑顔だ。


「......」


美緒は無言で降りてきたエレベーターに乗る。圭一も続いた。


圭一の左手には六個入りのたこ焼きがまだ三個残っている。焼きたてのたこ焼きからは、まだ湯気が立ち上っており、狭いエレベーターの中は見る見るうちにたこ焼きの匂いで充満していった。



「これ次乗る人、たこ焼き臭いだろうな? ハッハッハッ」


圭一はまたしても大笑い。


美緒は表情一つ変えることなく、自宅のある五階でエレベーターを降りた。当たり前のように圭一もそれに続く。



「もしかして私の家の前で寝るつもり?」


美緒はどこまでもついて来る圭一に呆れきった表情だ。



「まさか。美緒さんは501号室だろ。俺は502号室に住んでる。これは偶然だ。ほとんど奇跡だな。ハッハッハッ」


偶然の訳が無い。しかも502号室は女子大生が住んでいて、昨日も朝挨拶をしたばかりだ。



「昨日までここに住んでいた女子大生? あの娘なら昨晩引っ越したぞ。誰かに大金積まれて出ていったみたいだな。偶然にもタイミング良く俺が入居出来たって訳だ」 


「......」


美緒は言葉を失った。



「今日はお疲れ! 何かあればいつでも声掛けてくれ。まあ、美緒さんの方から俺に用なんか無さそうだけどな。まあいいか。それじゃあお休み!」


圭一は502号室の鍵を開け、そそくさと部屋の中に入って行った。そして内側からガシャッ! という施錠の音が聞こえた。



「ふう......」


美緒は大きなため息をつくと、思い出したかのように自身の部屋に入ろうとした。



そしてそれはその時起こった。


「ブルルルルー......」 


美緒のポケットに入れていた携帯電話に突如振動が起こる。着信を知らせるバイブレーターだ。



挿絵(By みてみん)



「誰? こんな時間に」


美緒は首を傾げながら携帯電話をポケットから摘み出す。そして液晶画面に目を向けるや否や、顔から一気に血の気が引いていった。



「あわわわわ......」


美緒は言葉にもならぬうめき声を上げるとともに、携帯電話を持つ手は俄かにブルブルと震え始めた。身体はまるで金縛りにあったかのように硬直していく。


「なっ、何で!」


携帯電話の液晶画面には、発信者の名前が表示されていた。



「斉田雄二」


何と液晶画面には、最愛の人であった雄二の名前が浮かび上がっているではないか!


携帯電話の振動は終わる事無く揺れ続ける。一向に止まる気配は無い。


美緒は意を決し、携帯電話を耳に当て、震える手で受話器ボタンを押した。



「お姉ちゃんは美緒さん?」


何と受話機の向こう側から聞こえて来た声は、少女の声だった。



「はっ、はい。そうですけど......あ、あなたは一体誰なの!」


「大牙は赤目が強いんだよ」


「あなた何を言ってるの? 何で雄二さんの電話から掛けてきてるのよ!」


身体の震えが止まらない。



「斉田雄二さんを食べちゃった悪い大牙達が、お姉ちゃんの所にも向かったよ。気を付けて。じゃあね」 


ガチャ、ツーツーツー。電話は切れた。



「何? 何なの?......うわあ! いやー!」


辺り一面に響き渡る美緒の叫び声。それは体の芯から発せられる魂の叫びと言ってよかった。



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