第8話 少女
「確かにそれも一理ありますね。この鷹も皆さんに覚えていてもらえて幸せですね」
「やっぱそう思うでしょう。私も死んだら剥製にしてほしい位よ。まあ不気味でしょうけどね。ハッハッハッ」
「いいえ、そんな......あれ? もうこんな時間。いや今日は本当に有難うございました。私はこれで失礼します。外で人を待たせているので」
「あらっ、もう行っちゃうの? これからもちょくちょく出前頼むと思うから宜しくね」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
エマは軽く頭を下げて、その場を足早に去って行った。
人間の剥製?......
それは確かに不気味だ。今まで考えた事も無かった。
もっとも現代社会において、死んだ人間を剥製化する事など認められていない。有り得ない話だ。
それにしてもあの鷹の目は鋭かったなぁ......
余りのインパクトにエマは建物の外に出てもその映像が頭から離れなかった。
一歩外に出るとやはりここは南国の世界。
灼熱の太陽が照りつけ、肌がチリチリと焼けるような錯覚に囚われる。
しかし気温は高くても、湿度は左程ではない。よって本土の蒸し暑さに比べれば、格段に過ごし易いと言えた。
あれえ......こんな所に噴水があったんだ。
ここに来る時は急いでいて気付かなかったが、診察棟と入院棟の間にはゴージャスな噴水が。
周囲を取り囲むように花壇が設置されており、色鮮やかな南国の花々が一面に咲き乱れている。その付近の地面はインターロッキングになっており、あたかも南欧にいるかのような気分になる。
花壇と噴水の間には、ベンチが弧を描くように置かれ、どのベンチに座っても、目の前が噴水になるような配置になっていた。ここも入院患者や職員の憩いの場となっているようだ。
よくよく見れば、小さな女の子が一人ベンチに座っている。パジャマを着ている所を見ると、入院患者なのであろう。
その周りに家族、看護婦などの付添いは見当たらない。熊の人形を抱いており、何やら人形に話し掛けているようだ。
エマが噴水の近くにやってくると、少女は人形に話し掛けるのを止め、こちらを見てニコッと笑った。
「あら一人なの?」
エマは気さくに声を掛けた。
「うん。お母さん今東京に帰っちゃってるから私一人なの。でもマリアがいるから寂しくないよ」
少女は熊の人形の頭を優しく撫でながらそう言った。熊のぬいぐるみの名がマリアなのであろう。薄いピンク色のパジャマが実に愛くるしい。
「お母さん東京に帰ってるんだ?」
エマは少女の前でしゃがみ、少女に目線に合わせて言った。
「うん。お母さん仕事があるから......でもね、月に一回桃に会いに来てくれるんだよ」
「あなた桃ちゃんって言うのね? 可愛い名前だね」
「うん。宮田桃だよ。今年五歳になったんだ。あたし心臓が悪いんだって。でもちゃんと大人しくして先生の言う事聞いてれば治るんだって。だから......あたし、いい子にしてるの」
「先生がそう言ってるんだから大丈夫だね。ちゃんといい子にして早く治そうね桃ちゃん」
「うん!」
「そうだ。桃ちゃんにいい物あげる」
エマは左手につけていたお守りのミサンガを外し、少女の手首に優しく巻き付けた。
ピンク色の可愛いミサンガだ。以前に友人からもらった南米のお土産だ。エマの事務所の棚の上に置いてある『導きの三姉妹』の人形と一緒に貰ったものだった。




