第7話 鷹
「遅くなってすみません。今日から潮風で働いている柊恵摩と申します。宜しくお願いします」
エマは弁当をカウンターの上に置きながら、努めて明るく言った。
「はい御代」
婦長は事前に用意してあった御代をエマに手渡した。
「毎度有難うございます。すごく綺麗な病院ですね。びっくりしました」
「ええ......この島は他の島との行き来がほとんど無いでしょう。だからこの島の人達を守れるのはこの病院だけなの。設備だってすごい整ってるのよ」
「確かにそうですね。島の人達も皆さんがいらっしゃるから安心でしょうね」
「あら、いい事言うじゃない。あなた出世するわよきっと。潮風さんクビになったらうちにいらっしゃい。雇ってあげるから」
婦長の顔は満面の笑顔。さぞかし嬉しかったのだろう。この病院で働く人達も、他の島民と何ら変わらず実に話し易い。
『病院』という事で、最初は多少身構えていたエマであったが、それが取り越し苦労である事に気付くまで時間は掛からなかった。
「そうなった時は是非お願いします。でもそうならないようにしっかり働きます。有難うございます。じゃあ私はこれで」
エマは一礼し、二階を後にした。
鷹の剥製......一階に降りるとやはりここで足が止まる。翼を大きく広げ、今にも獲物に飛び掛かりそうな躍動感。
鳳雛に匹敵するかのようなその鷹の迫力に、エマは思わず生唾を飲み込んだ。
「すごい迫力でしょう。ここの院長先生が前に飼っていた鷹なのよ」
見とれているエマに気付いた看護婦が、窓越しに解説を始めた。
「えっ? 院長さんが飼っていた? ペットだったんですか?」
エマは目を丸くした。
「そうよ。あなたは知らないと思うけど、ここの島の人達は皆ペットを家族同然と考えてるの。死んですぐに忘れちゃったら可哀そうでしょう。こうして剥製にしてあげればいつまでも忘れないから」
もし自分が動物だとしたら、死んだ後剥製になりたいなどとは思わない。でもみんながいつもまでも自分を覚えていてくれるなら......それも悪くないのかな? そんな事も一瞬考えたりする。
でもまあ考えてもしょうがない。自分は人間なのだから......動物とは違う。人によって色々な考え方があるという事だ。




