第6話 招かれざる者
「すみません。料亭潮風ですけど、二階のナースステーションにお弁当届けに来ました」
「ああ......潮風さんね。そこのエレベーターで二階に上がって」
受付の看護婦は笑顔で応える。
「はい。失礼します」
エマはそそくさとエレベーターへと向かった。
するとすぐ脇で作業着を着た細見の中年男性が五尺の脚立に足を掛け、天井の蛍光灯を変えようとしている姿が目に入った。
年の頃五十過ぎという所だろうか。妙に態度がふてぶてしく見えるのは気のせいか。
エマが脇を通り過ぎようとすると、その男はエマを呼び止める。
「ちょっとあんた。見掛けない顔だな。何しに来たんだ」
初対面にしては実に無礼な物言いだ。自分の来訪を面白く思っていない事は明らかだ。
「ああ......はい。初めまして。料亭潮風で今日から働かせてもらってます柊と言います。東京から来ました。今日は二階のナースステーションにお弁当届けに来たんです。これから宜しくお願いします」
エマは男の冷淡な態度を気に留める様子も無く、いつもと変わらぬ笑顔で応えた。
大概の男はこの笑顔を見て、少なからず癒しを感じるものではあるが、この男は違った。
更に不快な顔をして、今度は吐き捨てるように言った。
「どうせ島に住みつくつもりでも無かろう。ここはあんたみたいなよそ者の来る所じゃない。とっとと東京とやらに帰れ。二度と俺の前に現われるな」
そう言い終わるや否や、再び天井を見上げ蛍光灯を交換し始める。
その様子を見かねた受付の看護婦が窓口越しに言った。
「ちょっと......幾ら島外の人が好きじゃないからって、そんな言い方しなくてもいいでしょう。柊さんでしたっけ? 気にしないでね。管理員の斉藤さん、島外の人見るといつもこうなのよ。ほんとごめんなさい」
看護婦は本気で悪そうな顔。逆に申し訳ないような気になる。
管理員の作業着の胸ポケットには『斉藤銀二郎』と記載された名札がピンでとめられていた。
さすがのエマも、あまりの酷い言われように戸惑いを隠せない。まあどこにも偏屈者はいるって事か......
「いいえ、大丈夫です。私の態度が偉そうに見えたのかも知れません。こちらこそすみません。さぁ、お弁当届けないと」
エマは看護婦と斉藤銀二郎という名の管理員に小さく会釈をすると、そそくさとエレベーターで二階へと上って行った。
一階同様ロビーは薄暗いが、ナースステーションの中は妙に明るい。
「こんにちわ。料亭潮風です。お弁当お持ちしました」
ナースステーションには五名の看護婦が椅子に座り、黙々とそれぞれの仕事を行っている。エマの聞きなれない声を聴くと、五人は誰? と一斉に顔を上げた。
まだ十代と思われるような若い看護婦もいれば、明らかに五十過ぎと思われる看護婦も居る。年齢は様々だ。
「あら新人さん? ご苦労様。待ってたのよ」
中でも一番年配の肉付きの良い看護婦が即座に反応した。胸には婦長の名札が付けられている。




