第5話 セントジェーン病院
「ここが小学校と中学校。生徒が少ないから建物は一緒」
またしても玄関入口脇に大きなヤギ。これも剥製に違いない。
「ここが郵便局」
ここにも玄関脇に大型犬の剥製。
全ての建物が木造で皆年季が入っており、役所などの大きな建物には必ずと言っていい程、動物の剥製が入口付近に飾られていた。
この島の文化なのだろうか?
お呪いなのか?
それとも他に何か意味が有るのだろうか?
「ここが......それでここが......」
太一は呪文のように建物の名称を唱え続けた。
果たしてこれが案内と言えるのか? あまりに機械的な物言いではあるが、せっかくの休みを自分の為に費やしてくれているのだ。文句の言える立場でも無い。ここは感謝しておこう......
海岸通りはやがて左に大きくカーブを始め、その辺りまで来ると、それまで賑わっていた町並みもいつしか物静かな雰囲気に変貌していた。
そしてカーブを曲がり切ると、その先は三階建ての大きな建物が仁王立ちしていた。
「セントジェーン病院 診察棟」
看板にはそう書かれている。
これまでエマが見て来たこの島の建物は、全てが木造であり、その大半が老朽化していた。町役場や郵便局もその例外では無い。料亭潮風も然りだ。
しかしこの病院は明らかにそれらとは違っていた。鉄筋コンクリート造の真新しい建物だ。近代的な建物である事はこの離れた場所から見ても一目で分かる。
そしていつの間にやら路面はアスファルト舗装。自転車が突然走りやすくなった理由も分かる。
鉄筋コンクリート造の建物、アスファルト舗装された道路......都会ではごく当たり前なそれらも、昭和にタイムスリップしたようなこの島では、実に浮いた存在に思えて仕方が無い。
あれっ? 隣にもう一棟ある。
エマが見たもう一つの建物は『入院棟』と書かれていた。診察棟と同じ、鉄筋コンクリート造の三階建てだ。
それら二つの建物は、二階の渡り廊下でそれぞれを行き来出来るようになっている。
「太一さん。ちょっと待ってて下さいね。お弁当をナースステーションに配達してきますから。すぐに戻ります」
エマは自転車を降り、入院棟の玄関に立ち止まると、扉が自動的に開いた。それが自動ドアである事は言うまでも無いが、この島にいると、それもちょっとしたサプライスだ。
ロビーは意外と広く、受付に向かって薄い黄緑色の長椅子が置かれていた。
長椅子の脇には本棚が置かれ、雑誌や文庫本、漫画などが色鮮やかに並べられている。置かれている雑誌などは全て最新号。定期的な物流が行われているようだ。
ここは入院患者達の憩いの場となっているのであろう。
そして受付の横に置かれた大きな鷹の剥製......近くで見ると実に迫力がある。今にもその大きな翼を広げ、羽ばたいていきそうな錯覚に囚われる。
剥製とは言え、鷹の目の眼光は、生あるものと何ら変わる事無く実に鋭い。それはまるで、この病院を監視しているかのようにも思えた。
『守り神』
エマはすぐにそんな言葉が思い浮かんだ。
受付内に目を向けると、そこには数名の看護婦が見え隠れしている。それら白衣の天使達は、何やら大勢で楽しそうにくっちゃべっていた。
島の人口を考えると、看護婦の人数はかなり多いように思える。
島外からも患者がやって来るのだろうか?
他の島との交流はほとんど無いと聞いていたが......
まあいいか。




