第4話 角部屋
「真菜。あなたのお兄さんでしょう。そういう言い方は止めなさい。根は本当にいい子なんだから」
「ハイハイハイ。煩いからエマさん行こう。この家いやにならないでね」
「もちろん。いやになんかなる訳無いよ」
エマは真菜にウィンクして言った。
「ありがと。じゃあ上に行こう」
「うん」
二人は店の奥の階段を上がった。建物自体は非常に古いのであろう。階段の軋む音が大きく響く。
「階段やな音するでしょう。地震来たら崩れるよこの家。ハッハッハッ」
真菜は冗談みたいに言っているが、よく見ると壁に所々ヒビが入っている。大きな地震が来たら確かに怖いかもしれない。
二階の一番手前の部屋は扉が閉まっていて部屋の中は照明が点いていた。恐らくこの部屋が太一の部屋で、太一は今この部屋の中にいるのであろう。
真ん中の部屋も扉は閉まっているが、電気は点いていない。
「この部屋は私の部屋よ。何かあったらいつでも来てね。ただしノックしてね。彼氏が押入れの中に隠れてるから。なんちゃって!」
「じゃあ私の部屋に入る時もノックしてね。部屋でライオン飼ってるから。なんちゃって。ハッハッハッ」
エマもこの家の会話のテンポが分かって来たようだ。どちらかというと関西系の会話に近い。
そして一番奥の部屋は扉が開いていた。照明は点いていない。真っ暗だ。
「この部屋がエマさんの部屋よ。自由に使って。何か不自由な事があったら遠慮なく言ってね。
それからこんな辺境の島でもネットは繋げるからね。勿論携帯も電波通じるよ。
あと親父も言ってたけど、明日は朝早起きしなくていいからね。寝たいだけ寝て。それじゃお休み。また明日」
真菜は笑顔で親指を立てた。
「有難う真菜さん。みんないい人で本当に良かった。店に入る前正直ちょっと怖かったんだ。私頑張って働くからね。じゃあお休み」
エマも真菜に合わせて親指をちょこんと立て、そして自分の部屋へと入って行く。
エマは部屋を見渡した。間取りは六畳一間。角部屋の為、南側と東側に窓がついている。
東側の窓を開け外を見ると、すぐ下には海岸通りが走っており、その先は見渡す限りの海だった。
雨はいつの間に小降りとなっていたが、風は強く波も高い。
真っ黒な海を横目に南北に走る海岸通りは、等間隔に外灯が設置されている為、明るく比較的遠方まで見渡せる。
夜が明ければ、大自然の絶景を見る事が出来るのであろう。
エマは窓を閉め、改めて部屋の中を見渡した。
部屋の北側にはベッドが置かれており、シーツも枕カバーも掛けられ、何時でも寝れる状態になっている。
さっき下の店で話し込んでいた時、峰さんが途中中座していたが、きっとこの部屋のベッドメイキングをしてくれていたのであろう。峰に感謝だ。
エマは真菜の部屋との境の壁に耳を当てみた。真菜が携帯電話で誰かと話している声が聞こえる。
良く耳を欹てて聞けば、会話の内容までが分かる。壁は薄く、盗聴器いらずの部屋だ。
こちらから真菜の部屋の話し声が聞こえるという事は、真菜の部屋からも、この部屋の話し声が聞こえるという事になる。
今日初めて会った見ず知らずの人間が、薄い壁一枚隔ててこれから隣で寝泊りする訳だ。
話声でも聞こえれば、悪気は無くとも何を話しているのかと、壁に耳を当てる事位は容易に想定できる。
この部屋では携帯電話使用禁止!
そうせざるを得ない。




