第5話 寄り道
「まさかこんな危険な森にあの二人は住んでるってわけ? だいたい何でライフルなんか?」
危うく撃ち殺される所だった......あの構えは決して威嚇などでは無く、入り込んだ者を射殺するが為の構え。実に危険な男だ。
島の東側には町が広がり、住むならばそこが適していると言えよう。それに対しここは『大牙』という毒蛇が多く生息する『西の森』であり、人が住むにはお世辞にも適しているとは言えない。それでもここに住みついているという事は、それなりの理由があるに違いない。
男一人ならただの物好きという事でかたずけられる話かも知れないが、今目の当たりにしたのは少女だ。エマはこの二人が気になって仕方がなかった。
もしかしたら今回の事件と何か関係があるのでは? ちょっと寄り道していくか......
抜き足、差し足、忍び足......エマは呼び寄せられるかのように、二人が消えて行った山上に向かい、静かに斜面を上り始めていく。
あの男に見付かったら今度こそライフルで撃ち殺される......そう思うと慎重にならざるを得ない。エマは木の根を足掛かりにし、滑り落ちないよう一歩一歩確実に上って行った。
斜面を登る事三十メートル......
そこはひっそりとした高台。その部分だけは木が伐採され、小さな公園とも言えるような平地が広がっている。
エマは恐る恐る木々の合間から顔を出した。真っ先に目に映ったもの......それは列記とした『家』だった。
丸太を積み上げて造られたその『家』は、サンタクローズが思わず入りたくなるような大きな煙突が突き出し、窓からは、暖かいオレンジ色の光が庭の草葉を照らし出している。
その家のすぐ横には、同じく丸太で造られた倉庫のような建物が並列していた。
意を決し、エマは身を屈めながら小走りに家へと近づいて行く。足音は雨の滴の音にかき消され、気付かれる恐れは無さそうだ。
窓から家の中を覗き込むと、おぼろげではあるが、二人の姿が確認出来る。壁には先程のライフルが立て掛けられており、その横には大きな動物のはく製が置かれていた。
男はソファーに座り、うたた寝を始めたようだ。コックリコックリしている。
女の子はテーブルに座り、絵本に見入っている様子。
今がチャンス!
エマは足音を立てないよう、素早く隣の倉庫へと向かった。
この建物窓が無い......怪しい!
エマは静かに扉のドアノブを回してみた。鍵は掛かっていない。ギーという耳障りな音とともに扉は開き、中に入って手を放すと扉は自動的に閉まった。
バタンッ。中は真っ暗で何も見えない。窓の無い建物だ。致し方ない。
「何だこの匂いは?」
エマは反射的に手を鼻に当てる。生臭いと言うか動物臭いと言うか......鼻を衝く耐え難い匂いがこの倉庫には充満していた。
更に何かがそこらじゅうでごそごそと動き回っている。それは一か所や二か所の話では無い。上下左右、至る所からゴソゴソと断続的に響き渡るその音はまるで和音のようにも聞こえる。
何か嫌な予感......背筋に戦慄が走る。
エマは意を決してLEDライトに明かりを灯した。
カチッ! 途端に倉庫内が明るくなる。
「うわぁ!」
それは目を疑うような光景だった。




