第7話 格闘
敵は二人か?!
沙世は咄嗟に後方へと視線を向けた。
「死ねっ!」
沙世が後ろに気を取られた隙をついて、小柄な刺客は再び沙世に襲い掛かる。沙世は刃物を持った右手を瞬時に掴むと、そのまま足を掛けて後ろへ投げ倒した。倒れた拍子にナイフが地面を転がる。
「しまった!」
男は血相を変えて、ナイフの転がった方向へと四足で向かう。しかし一歩及ばず。その直前で沙世がナイフを拾い上げた。沙世は冷酷な表情を浮かべ、躊躇無く男の胸を真上からつき刺した。
グエッ! 男は奇妙なうめき声を上げると、口から血を吐き、そのまま絶命した。一瞬の出来事だった。
よしっ、あと一人!
沙世はすかさず立ち上がると、更なる殺気が漲る後方へと向き直った。見れば二メートル前方に男は仁王立ちしている。右手には刃渡り二十センチのナイフ。あんなのに刺されたら一たまりも無い。
こいつは今の男と揉み合っている間、全く手を出してこなかった......なぜだ? ただの腰抜けか? それとも一騎打ちに手を出さない主義なのか? まあどうでもいい。こいつ大した事無い......
沈黙が辺りを包む。水を打ったような静けさだ。
「......」
男は無言。
この男は今の私の戦いぶりを見て怖気付いている......きっとそうだ! 沙世は安易な判断を下した。
「そっちが掛かってこないなら、こっちから行くよ!」
そう言い終わるや否や、沙世は一気に男へ向かって突進した。ナイフを男の胸目掛けてつき出す。男は身動き一つせず、簡単にそれをかわした。
しまった!
沙世の動きが完全に読まれている。そして沙世のナイフを持つ右手は、男の大きな手でつかまれ、力任せに引き寄せられた。物凄い怪力だ。
次の瞬間、沙世は男の空いている左手で頭を掴まれたかと思えば、横のレンガ張りの壁に頭を押し付けられていた。
痛い!
物凄い力で壁に押し付けられた沙世の頭蓋骨は、ピキピキと悲鳴を上げる。全く身動きが取れない。気付けば足は宙に浮いていた。
敵に勝つには、まず敵を知る事から始まる......戦いにはそんなセオリーがあるが、『仕掛けて来ない=相手は弱い』などという安易な判断を下した時点で、戦いはすでに決着が着いていたと言わざるを得ない。
残念ながら、力の差は歴然だった。




