第5話 帰還
2話同時更新です。
沙世の一途な心......その対象が極神教でなければどんなに良かったか。これも運命と言えばそれまでの事だ。
Good Luck 忠実な僕さん......バーテンダーは立ち去った沙世の残像に向かってエールを送った。
「おう......もうこんな時間だ」
バーテンダーは外の看板の電気のスイッチをOFFにする。沙世が外の看板の前を通り過ぎるのを待っていたかのように明かりが消えた。
あのバーテンダーの目は、決して嘘を言っている目では無かった......実際、あの店で待ち伏せされた時、私達を殺すつもりならその時幾らでも出来たはずだ。しかしそうはしなかった。
では一体誰が二人を殺したのか? 極神教が我々を殺す? ふざけるな! そんな事ある訳が無い!
自分は物心ついた時から極神教に忠誠を誓っていた。そして極神教の為に命を捧げる事は怖い事では無く、むしろ名誉な事。
『仲間の為に命を捧げた者は、あの世で神の僕と成り、以後幸せに暮らす』......これは毎日親から念仏のように聞かされていた口癖のようなものだった。
極神教という眩い光を発するご来光にも近いその存在に対し、一瞬とは言え、自分の心の中に雲が掛かった事を沙世は大いに反省し、自らの忠誠心という風でその雲を瞬く間に掃った。
自分は極神教の選ばれし戦士だ! まずは、警察の包囲網を突破し、極神島へ帰還せねば......
時刻はすでに夜の十一時をまわっていた。ここが新宿であるとは言え、裏通りともなると人通りは極めて少ない。野良猫がゴミをあさっているだけで、薄汚れた歩道に歩く者はいない。
時折通り掛かるタクシーのヘッドライトが実に眩しく目が眩む。すると、正面からスマートフォンを操作しながら、ふらふら歩く茶髪の若い女性が見えて来た。
ここは治安の悪い新宿の裏通り。しかもこんな夜更けに女性の一人歩きなどは以ての外だ。犯罪に巻き込まれたとしても、文句の言えた義理では無い。近づくにつれ、その女性の身なりも見えてくる。
水商売か......必要以上に短いスカートと、品の無い厚化粧は暗がりの中でもよく分かる。
外灯の下を通る度に、視界に現れそして消え、また現れる。その女性は客にメールでも打っているのだろうか? スマートフォンに集中して、全く前を見ていない。しかも耳にはヘッドホン。これでは正面から歩いて来る沙世に気付くはずも無かった。
その女性との距離が徐々に縮まっていく。狭い歩道だ。
沙世は女性を避けるべく、幾分右肩を前に出し、左に寄ってすれ違おうとした。しかし女性の歩みは、酔っぱらっているのか実に不安定。沙世が避ける為に寄ったその方向へわざわざ進んで来る。
あっ、危ない!
次の瞬間、沙世の右肩と女性の右肩が見事にぶつかり、女性が大事に操作していたスマートフォンは、その拍子で見事に手から跳ね飛んでいった。
「あっ!」




