第3話 洗脳
「もう一度聞きます。彼らを殺したのはあなた達なのですか? 話をたぶらかさないで下さい」
沙世はショルダーバッグの中に手を入れる素振りを見せる。バーテンダーは、そんな沙世の手の動きを目で追った。この中に入っている刃物......それはあなたの喉を掻き切る為にあるのよ! そんな威嚇の意を含んだ仕草だったのだろう。
「ああ......その件ですね。そんなに知りたのならお答え致しましょう。殺したのは我々ではありません。そんな事はあなたもお判りなんでしょう。もし我々が殺したと思っているのであれば、ここに来ると同時に私を殺していたはずです。訓練を受けたあなたなら、年寄りバーテン一人殺す事くらい赤子の手をひねるようなものでしょうから」
バーテンダーは落ち着き払った表情を崩す事なく、淡々と答えた。
「ならば証拠を示して下さい。今すぐに!」
「証拠と言えるかどうか......それは解りませんが、彼らはあなた達がここを去った後、すぐに本土を離れました。本土を離れたと言えば、どこへ行ったかもうお分かりでしょう。そして、私はこの店を任されています。新聞よると二人が殺されたのは28日金曜の夜。即ち昨晩です。私は一晩中この店に居ました。それを証明してくれる人は何人もいます。もっとも信じる信じないはあなたの自由ですが......」
「あなた達が殺したのでは無いとい言いたいんですね。では一体誰が殺したんでしょうか?」
沙世は意気込んで詰め寄る。
「そんな事はあなたが一番良くご存じなんじゃないですか?」
バーテンダーは、ここで沙世の目をキリッと睨んだ。
「だからそれは誰なのかと聞いているんです!」
「あなたが忠誠を誓うその方達に決まってるじゃないですか!」
「何だって?!」
気に紅潮する沙世。一方バーテンダーは、沙世のそんな表情の変化に気付いているのかいないのか? お構いなしに続ける。
「お二人とも後ろからロープで首を一気に絞められたそうです。争った形跡は無いそうですよ。その新聞にそう書いてあります。これは間違い無く、最初から殺す事を目的としたやり方です。
新宿での爆発事件以降、あなた達は重要参考人として警察に追われているのでしょう。あなた達が忠誠を誓うその人達による口封じ以外には考えられません。他に誰がいると言うのですか。
生き残った三人の内二人はすでに殺されました。残っているのはあなた一人です。こんな所で押し問答をしている場合では無いのでは?」
バーテンダーはまるで子供を諭すような口ぶりだ。
「極神教が私達を殺すですって? よくもそんな事を!」
沙世は両手で力任せにカウンターをバタンッ! と叩いた。その拍子でオレンジのカクテルが波打つ。
バーテンダーは揺れるカクテルを見つめながらなおも語る。
「それともう一つ。ショッピングモールでの出来事ですが、あなたの大事な人は自分で自分の命を絶ったのです。問い詰められて自らの口を封じたのです。その話に偽りは有りませんよ。彼をそんな風に洗脳したのは誰だか分かりますね」
「極神教と私達は一心同体。お前に何が分かると言うんだ! いい加減な事を言うな!」
そう叫んだ沙世の体は、まるで感電したかのようにブルブルと震えていた。
「あなた......そろそろ目を覚ましたらいかがですか? 極神教はあなた達の事を使い捨ての駒としか思っていません。いい加減......」
「まだ言うか!」
沙世はそう叫ぶや否や、カウンターを飛び越え、バーテンダーに詰め寄ると、一気にナイフを首元に突きつけた。
ガシャン! 落ちたボトルが砕け散る。
「あなたはまだ若い。ここは一旦身を隠し、ほとぼりが冷めたらもう一度人生を再チャレンジしてみたらいかがですか? あなたなら素晴らしい結婚だって待っていますよ」
バーテンダーは恐れるどころか、薄笑いすら浮かべている。




