第2話 カクテル
2話同時更新です。
バーテンダーは視線を下に落した。
無造作に投げ出された女性の左手が視界に入る。見れば手首から下が無い。本来隠したくなるようなその左手を、わざわざ見えるようにカウンターの上に投げ出したその姿勢は、威嚇にもとれる。
さては爆弾を外す為に、自ら手首を切り落としたか......
突如背筋の凍るような感覚に囚われるも、動揺を相手に悟られるようなバーテンダーでも無い。
「いらっしゃいませ......何をお作りしましょう」
いつもと何ら変わりない。温かみある笑顔での接客だ。
「お任せします」
「かしこまりました」
ピンと張りつめた空気の中、バーテンダーは女性に背を向けると、棚に並べられたボトルを取り出した。そして、シャカ、シャカ、シャカ......手慣れた手つきでシェイカーを振るその様は、一見、日本独自の『舞』のようにも見える。
女性はそんなバーデンダーの『舞』が目に入っているのか入っていないのか? ただ何となく......そんな曖昧な表現がぴったりな視線を送っていた。
店内にはロネッツの『BE MY BABY』が申し訳程度に流れている。
Be my be my baby Be my little baby......拳の効いた力強い歌声だ。ロネッツのアルバムジャケットは、インテリアとして店内の壁に飾られていた。実にキュートな三人組だ。
カウンターに座るこの年若き短髪の女性......それは美緒殺害の為、極神島から本土に送られてきた刺客の沙世に他ならない。
前回BAR SHARKに沙世が訪れた理由は他でも無い。ターゲットの美緒を殺す為だった。しかし、事前にその行動を読まれて待ち伏せされ、挙句の果てには、左手首に高性能爆弾を巻かれる始末となった。
その仕返しにやって来た......そう考えるのが自然だろう。
「率直に聞きます。彼らを殺したのはあなた達なのですか?」
バーテンダーはシェイカーからカクテルをグラスに注ぎ、カウンターに置いた。
「オレンジブロッサムというカクテルです。アルコール度数は高いですが、オレンジジュースをふんだんに使っていますので、とても飲み易くなっています。まずは一口嗜まれてみてはいかが? 話しはその後で。時間はたっぷりあります」
沙世はいきり立った感情を一旦抑えた。そしてバーテンダーに言われるがままグラスに口を付ける。
よもや毒など入れる事もあるまい......
「このオレンジブロッサムとは、花の名前で欧米では結婚式の際、ウェディングドレスによく飾られるとの事です。そこから始まり、結婚式では男女を問わず、多くの人に飲まれるようになったらしいんです。
あなたも結婚される時は、是非ウェディングドレスにオレンジブロッサムを飾ってみて下さい。あなたならきっとお似合いだと思いますよ。それで......お味はいかがですか?」
バーテンダーはひまわりのような笑顔で問い掛けた。まるで恋人と話しているような表情だ。
一方沙世は、そんな質問に答えるはずも無かった。酒の話などはどうでもいい......そんな表情を浮かべている。




