第4話 クレオパトラ
「エマさん。今斉田雄二って言ってたわよね。イニシャルにするとY.Sだわ。ここに書かれているNAPOREON Y.Sと一緒じゃない? 名前の後に書かれているアルファベットは、剥製にされた人のイニシャルなんじゃないかしら?」
春子は興奮した様子で目を輝かせた。
「だとするとCREOPATRAの E.Hもイニシャルって事か?」
「E.H て誰かいる?」
山本は腕を組んで考え始めた。
「もしかして......」
「......」
山本と春子の二人は同時にエマの顔を見た。
「E.H......エマ・ヒイラギ。つまり私が剥製にされてこの台座に立つって事ね」
エマは引きつるような複雑な笑みを浮かべながら呟く。
「その通りだ。君は腕が立つ上に頭もいいようだ。クレオパトラに相応しい。ハッ、ハッ、ハッ」
突如背後から大きな笑い声が立ち上がった。その途端、空気は凍りつき、戦慄が走る。
誰だ?!
四人は即座に後ろを振り返った。見れば観音開きの大きな扉は全開となり、二十人を超える傭兵が皆銃を構え左右に大きく広がっている。その中心に立っているのは、紛れも無い秋葉大地と佐久間厳七だった。二人とも鬼の首を取ったような余裕の笑みを浮かべている。
いつの間に!
絶体絶命......四人にとってそう言わざるを得ない状況と化していた。
皆『人間の剥製』という衝撃的な光景を目の当たりにし、自分らが追われ人である事をいつの間に忘れていた。その事がこの危機的な状況を招いてしまった事は今更言うまでもない。
「くっそう......」
エマの顔には、絶望感がありありと浮かび上がっている。
一方、秋葉大地の方はと言うと、この圧倒的有利な状況を楽しむかのように、余裕の笑顔を浮かべている。そして恭しく話し始めた。
「私のコレクションはゆっくりご覧頂けたかな?真の芸術を導くものは正に発想力。素晴らしい発想力だとは思わないか? もうすぐ君もこの台座の上に立てるんだよ。楽しみで仕方ないだろうクレオパトラ君。ハッ、ハッ、ハッ......」
大地は白衣のポケットに手を突っ込みながら声高らかに笑い声を上げた。それに呼応するかのように、傭兵達の中でも笑いの渦が巻き起こる。
「酷い悪趣味。残念だけど私は殺されて剥製にされるつもりなんて無いから。この台座の上に飾られるのはあなたの方よ!」
エマは火の出るような視線を大地に向けた。
「そうだ! お前達の思い通りになると思ったら大間違いだぞ。偉そうに銃なんて向けてるけど俺達を撃てない事は解ってるんだ。ほらっ、撃ってみろよ! 撃てないんだろ!」
山本はそう叫びながら、両手を大きく広げ、前に歩き始めた。
「ちょっと山本さん。無茶しないで! 戻って来なさいってば!」
春子は即座に山本の手を掴み止めようとしたが、山本はその手を振り払う。撃てる訳が無い......なぜなら俺の体は奴らの大事な商品なんだから......
山本はそんな高を括っていた。しかし答えはあっさりと帰って来た。
ドンッ!
突如鼓膜を破らんばかりの大爆音がホールに響き渡る。
「えっ、何?」
「何が起こったの?」
四人は不可思議な表情を浮かべながら互いに顔を見合わせた。一瞬の沈黙が辺りを包み込む。




