第3話 斉田雄二
「お姉ちゃん。ここだけ剥製が居ないよ」
玲奈は扇形に並べられた剥製群のほぼ中央に置かれた台座の前に立っていた。見れば、そこに置かれているのは台座だけでその上には何も無い。春夫は台座に刻まれた文字を読み上げた。
「どれどれ......何て書かれてるのかな? ええっと......CLEOPATRA E.H ああクレオパトラか。でも名前の横のE.Hは何の意味なんだ?」
「その隣もそうね。NAPOLEON Y.S ナポレオンは分かるけどY.Sは意味不明ね」
台座の上には、なるほどナポレオンらしき服を着た若い男性が仁王立ちしている。
「このナポレオンさん。まだ若くてハンサムなのに。酷い事するわね全く」
春子はナポレオンの顔をまじまじと見つめながら、神妙な顔つきで呟いた。
「あれっ? エマさんどうしたんだ。ブルブル震えて」
「この男は......」
エマは蚊の鳴くような声で微かに言った。顔は俄かに赤みを帯び、二つの拳は血が滲むほどに強く握られている。
「何て事を......」
「あんたの知り合いなのか? だとしたらショックだな」
山本はこの状況に少しは慣れてきたのか、まるで他人事のような口ぶりだ。
エマの目の前に立つ『ナポレオン』......その目はまるで、何かを訴え掛けるかのようにエマの目を見詰めていた。
身長百八十センチ。細身の体の割に肩幅は広く、貧弱さを感じさせない。そして鋭い眼つきに細い眉。所謂イケメンという部類に属す顔だ。女性ならばその多くが好感を持つであろう。
「斉田雄二......」
エマは全身の力が抜けたように体をだらんとさせ、嗚咽するかのようにその名を呟いた。目の前に仁王立ちする『ナポレオン』と書かれた剥製......それは正に桜田美緒が心を寄せた斉田雄二に他ならない。
エマは大きく見開かれた両の目を静かに閉じた。EMA探偵事務所で肩を震わせ涙した美緒の顔が嫌でも思い出される。
何て酷い事を......
もし斉田雄二が西の森の崖から飛び降り自殺をしたのならば、その体はすでに五体を留めていないだろう。死因が自殺で無い事は明らかだ。
美緒さん。あんたの大事な人こんな所に居たよ......
エマは目に熱いものを浮かべながら、震える手を合わせ亡骸を弔った。 さすがのエマも、想像だにしなかった光景を目の当たりにし、動揺を隠せない。
しかし時は刻々と過ぎ、追手がいつここにやって来るやも知れない。 冷静にならねば......こんな所で狼狽えている場合では無かった。
そうだ、何かヒントが隠されてるかも!
エマは思い出したかのようにナポレオンの服のボタンを外し、まずは外傷を探した。首回り、胸部、背中......余す所なく慎重にチェックしていく。そしてその視線が下腹部に至った時、エマの目はスイッチが入ったかのように光を灯した。
あった!
右の脇腹にしっかりと残った大きな刺し傷......それは臓器を抜き取る際に出来る手術痕とは明らかに違っていた。左から弧を描くような軌道で刺されたに違いない。




